「動かない列車」に乗る旅 Part6

■はじめに
 鉄道の車両(貨車を含む)に宿泊するこのシリーズであるが、過去には以下のように5回ほど実施してきている。

1回目(2010年10月)
 ・阿久根ツーリングSTAYtion(鹿児島県阿久根市) ※2014年閉鎖
 ・ブルートレインたらぎ(熊本県多良木町)
 ・TR列車の宿(宮崎県日之影町)
2回目(2017年5月)
 ・トレインホステル北斗星(東京都中央区) ※2021年7月営業休止
 ・ブルートレインあけぼの(秋田県小坂町)
3回目(2019年11月)
 ・ブルートレイン日本海(岩手県岩泉町)
 (2008年に閉鎖された小岩井農場にある「SLホテル」の外観も見学)
4回目(2021年9月)
 ・モーニングサラダ(山梨県富士河口湖町)
 ・民宿あずさ号(長野県上田市)
5回目(2021年11月)
 ・くじゅうエイドステーション
 ・汽車ポッポ食堂と民宿[別邸]

 今回は、北海道北斗市に今年4月に開業した「北斗星スクエア」に宿泊することにしている。その名の通り、寝台特急北斗星の車両を再利用した施設である。道南いさりび鉄道の茂辺地駅近くにある広場に北斗星の車両が2016年頃から展示されており、昨年の9月に訪問したことがある(拙文「【第三セクター応援鐡旅H】北海道編」参照)。その当時は数年も野晒しにされていた影響で外壁がボロボロであったが、クラウドファンディングを経て内装と共に奇麗にして、開業に漕ぎ着けた模様。宿泊予約はネットでもできるため、5,500円の「B寝台」を押さえておいた。
 ついでに、このシリーズの3回目で宿泊した「ブルートレイン日本海」にも再訪しておきたい。こちらも、今年の春にクラウドファンディングで外装が塗り直されている。

@北斗市内にて

■2022.6.25
 今回使用する切符は、「大人の休日倶楽部パス(東日本)」である。新幹線の有効区間は新青森までであるため、そこから先は経費削減のため在来線で津軽二股(新幹線の駅「奥津軽いまべつ」のすぐ横)まで行き、そこから新幹線に乗ることにしている。
 最寄駅からJRを乗り継いで大宮まで行き、「はやぶさ1号」で新青森へ。在来線で青森まで移動して、市場に行ったりしてしばし時間を潰してから11時01分発の蟹田行に乗り込んだ。蟹田着11時38分。
 ここで三厩(みんまや)行に乗り換えるが、待ち構えていたのは最新型の車両であった。

@新しい

 津軽線には何回か乗っているが、オンボロの気動車であることが常であった。車両更新の波も、ここまで来ているようである。ホーム上には「蟹田ってのは風の町だね」という太宰の言葉の木版があるが、いつの間にかボロボロになっていた(この木版は20年以上前からあるはずである)。
 満員の乗客(立つ人もいる)を乗せて、11時44分に蟹田を出発した。ちょっとした峠区間を越えると津軽二股に到着したが、今下車しても時間が余り過ぎるため(奥津軽いまべつに停車する新幹線が少ないため)、そのまま三厩まで乗り通すことにしている。
 三厩には、12時20分に到着した。折り返しまで20分くらいあるため、しばし散策である。

@駅正面もリニューアルされていた

 12時41分発の列車で戻り、12時55分に津軽二股に到着した。
 三厩まで行って時間潰しをしたが、新幹線が出発する14時15分まではまだ1時間以上もある。まずは併設されている道の駅へ行き、夜用に地元産のタコの足を買ったりしたが、暇つぶしはすぐに終わってしまった。その後は、奥津軽いまべつ駅に移動して待合室でテレビを観て時間を潰した。
 奥津軽いまべつから木古内までは、特定特急券適用で3,200円である。えきねっとで検索すると、トクだ値で3,220円と微妙な差である。しかし、後者であればJREポイントが付くため、事前にそちらを購入してある。

@駅にはこんな掲示も(駅がある場所は青森県だが、JR北海道管轄の駅なので)

 14時15分、同駅を出発した。周囲に何もない駅であるためここから乗る人などほとんどいないと思っていたが、意外にも私を含めて10人くらいが乗り込んでいた。
 青函トンネルを通り過ぎ、14時48分に木古内に到着した。30分後に接続する道南いさりび鉄道の列車があるが、それには乗らない。宿泊施設がある茂辺地駅周辺は店舗が何もないため、ここで夕食を買う必要があるためである。
 しかし、乗車予定の列車は16時32分発であり、2時間弱時間がある。ということで、駅から徒歩30分くらいで行ける「いかりん館」(木古内町郷土資料館)に行くことにしている。というのも、鉄道関係の資料があるためである。
 北海道らしくない暑さの中を歩き続け、同施設に到着した。早速中に入ったが、無料の施設であるのに予想以上に充実した鉄道関係の資料であった。

@たくさん

 展示品を見ていると、女性の係員が切符にハサミを入れることができる備品を持ってきてくれてそれを体験させてくれた。
 鉄道関係の資料を見終えてからはその他の展示(民俗資料等)を見て、その後はこの施設の後ろにあるトロッコ鉄道(廃線となった江差線を利用している施設)を見たりしてから町内に戻り、スーパーで食材を買い揃えてから木古内駅に戻った。
 券売機で茂辺地までの切符を買い、ホームへ。待っていたのは緑色の車両であった。

@もちろん1両

 16時32分、木古内を出発した。時折右側に海が広がる景色をぼんやりと見続け、目的地である茂辺地には16時59分に到着した。ここまでの運賃は600円であり、割引販売中の一日乗車券(700円)と比較すると微妙なところである。JRと比較しても、乗車時間の割には高いと思えるが、致し方ないのであろう。
 駅から歩いて数分のところにある広場へ行き、プレハブの窓口で受付を済ませた(料金はすでにネットで支払い済み)。鍵が渡されたが、棒状のものは車両入口のもの、普通の鍵は個室のものである。部屋を予約すると、個室とB寝台がセットで2か所利用できる。

@鍵一式

 早速、2両編成の車両の中へ。入るとすぐ右手に洗面台(当時そのまま)があり、ここでスリッパに履き替えて中へと入る。この車両にあるのはラウンジ(当時の呼び名は「ロビーカー」)と個室であり、ラウンジは飲食用のフリースペースとして、個室は鍵の掛かる物入れとして利用可能である(ただし、それはあくまで建前上であり、B寝台にある寝具をここに移動させて寝ても良いとのこと)。

@あくまで物置です(Bソロ上段)

 次の車両(先頭車両)は2段式B寝台であり、4人分のスペースを利用することができる。下段の片方には寝具一式と袋が置いてあり、袋の中にはバスタオル・タオル・歯磨き・コップ・スリッパ・バスマットが入っていた。電源コンセントもあるし、ティッシュやごみ箱もあるため、必要なものは揃っている感じである。

@久々のB寝台

 なおこの車両であるが、所謂「開放B寝台」ではない。4人の空間がドアで区切られているものであり、現役時代は「Bコンパート」と呼ばれていたものである。
 それにしても、家庭用エアコンがあるラウンジ部分は涼しかったが、BソロもBコンパートもかなり暑い。「このままでは寝られそうにないな」と思っていたところ、丁度宿の人が通りかかり「暑いですか?」と聞いてきた。その後の話は省略するが、恐らく夜になれば大丈夫とのことであった(実際、日が落ちたら車内の気温も落ち着いてきた)。

@コンパートメント車両

 なお、いずれの部屋にも灰皿が付いているのが、時代と言えば時代である。
 灰皿以外に気付いたのは、コンパートの机の下に付いていた栓抜きである。「瓶ビールを買って来ればよかった」と思ったが、時すでに遅しである。

@これで開けたかった

 荷物を置いて一段落したので、まずは外に出て車両の様子を撮影したりして(表紙写真)、続いてはシャワーである。入口近くにある洗面台と同様に、シャワーも現役時代そのままに利用できるのである。北斗星については廃止前に何度か乗ったことがあるが、シャワーは未経験であったので、これは嬉しい体験である。
 ラウンジのある車両にシャワー室が2つあるが、そのうちの1つがそのまま使えるようになっている。現役時代はカードが必要であったが、今はもちろん不要で、ボタン押すだけでお湯が出てくる。

@初体験

 シャワーも終えてさっぱりし、この時点でまだ18時くらいであったが、もうやることがないのでスーパー食材で一献である。安総菜ばかりであるが、北斗星のラウンジで頂けば雰囲気はまったく違うものである(なおこの車両内にレンジと冷蔵庫があり、自由に利用可能となっている)。

@ラウンジ(ロビーカー)で一杯

 程良く酔ってからはもう寝るだけである。問題は、どちらの部屋で寝るか、である。Bソロについては、現役時代の寝台特急「北陸」などで何回も乗っている反面、Bコンパートについてはタイに譲渡された車両で1回乗っただけである(しかも海外である。拙文「タイで寝台特急「あかつき」に乗る」参照)ので、コンパートで寝ることにした。

■2022.6.26
 昨晩は19時半くらいに寝てしまったので、必然的に4時起きである(それでも寝すぎであるが)。もう明るかったため、身支度を整えてから近くを散策してみた。海もすぐ近くである。
 北斗星の車両の横にウッドデッキがあるが、そこに上がる階段が皆無である。そこでラウンジのある車両のドアを引いてみると、開けることができた。どうやら、そこから出入りできるようである。

@せっかくなので出てみる

 ここでBBQでも出来たら家族連れにも人気が出そうであるが、それはそれで準備等も大変かもしれない。
 7時過ぎに宿を出て茂辺地駅に向かい、7時26分発の列車で木古内へと向かった。
(なお、茂辺地駅には7時15分頃に来ていたが、その時点から反対方向に貨物列車が停まっていた。そして、その貨物が踏切を跨いでいるため、ずっと音が鳴りっぱなしであった。都会であれば大問題であるが(渡るに渡れない)、ここなら問題ないのであろう)

@今日は茶色の車両

 どんよりとした海を見たりして、木古内には7時54分に到着した。到着したのはいいが、ここから乗車する新幹線は9時48分発であるため、今日もまたここで2時間ほど時間がある。しかし、それの1本前の新幹線は6時台であるし、茂辺地駅の始発は私が乗って来た列車であるから、どうしようもない。
 もう何度も来ている木古内であるため、佐女川神社や「みそぎ浜」も訪問済みであるが、それらを再訪したり9時に開店した道の駅に行ったりして時間を潰した。
 なお偶然であるが、8時台に新幹線待合室で一休みしてみたところ、テレビ(NHKローカル)で北斗星スクエアが特集されていた。奇遇である。
 時間となり新幹線に乗り込み、9時48分に出発した。今日の朝食は、木古内の道の駅で買ってみたアンパンである。

@豆がいっぱい

 青函トンネル内ではやることもないのでこの旅行記を書いたりして時間を潰し、そのまま八戸まで乗り通した(木古内から新青森までは「トクだ値」で買っており、新青森から先は大人の休日倶楽部パスである)。
 八戸からは鮫行の列車に乗り換えるが、ホームを降りて行くと、丁度「カシオペア」が入線してくるところであった。今となってはツアーでしか乗ることができないが、安いプランでも13万円程度、1人で乗ろうとすると18万円くらいするため、手も足も出ない。この列車の現役中に「2人分の料金を支払って」乗ってしまえばよかった、などと思ったりもする。

@高嶺の花

 11時34分の列車に乗り、終点の鮫へ(11時55分着)。ここで小一時間時間があるため、蕪島に行くことにしている。蕪島はかなり前(15年くらい前)に行ったことがあるが、その後のニュースで「神社が燃えてしまった」と聞いたことがある。今日は、再訪してお参りである。
 劇的に暑い中を歩き続け、蕪島へ。かなり暑いが、風があるため多少マシである(この週末、関東地方では40度を超えた地域もあるという。それよりはマシ)。
 参拝後は同じ道を必死になって戻り、鮫駅に到着した。

@鮫駅だけあって鮫がいる

 しばし待ち、八戸方面からやって来た12時48分発の久慈行(2両編成)に乗り込んだ。木古内の道の駅で買ったポテトチップでも食べながら海でものんびり眺めるか、と思っていたが、なんと満員(立っている人も多数)である。コロナの影響はまだ各所に残っているが、観光客は戻りつつあるようである。
 しばらく立ちながら外を眺め続け、種差海岸駅でロングシートの部分が空いたのでその後はそこに座り続けた。

@海を見ながら

 14時09分、久慈に到着した。すぐに接続する三陸鉄道には乗らず、ここで夕食の食材を調達することにしている。
 まずは道の駅に向かって歩き始めたが、日差しが痛いくらい強烈である。あれこれ歩くのは諦めて(食材は道の駅中心に買うことにして)、小一時間ほど道の駅の無料スペースにあった机でこの旅行記を書いたりして涼んだ。
 買い物をしてから駅に戻り、16時14分発の三陸鉄道で岩泉小本に向かった(17時10分到着)。9分の乗り継ぎで路線バスに乗り換えて、ブルートレイン日本海がある「ふれあいランド岩泉」の最寄りバス停であり「道の駅いわいずみ」には17時30分過ぎに到着した。
 歩いて川を越え、キャンプ場の本館に行って手続きを済ませた。A寝台のBOX使用(上下2段)は3,600円であり、前回利用時の2,040円よりは高くなっているが、それでもまだ安い部類であろう。

@塗装も新しくなりました

 なお、ここはあくまでキャンプ場であるため、タオル類やアメニティ(歯ブラシ等)は持参が原則である。
 前回との相違点は、受付時に鍵を渡されたという点である。車両に近付いてから理解したが、要するに今日の利用客は私だけ(実質の貸し切り状態)ということである。開放型寝台の不安要素は「イビキのうるさい利用客がいたら悪夢」という点であるが、今日はその心配がない。

@この車両すべて私だけで使える

 車両の奥には洗面台とトイレがあり、ここの場合はトイレもそのまま利用可能な状態となっている。
 各ボックスは、下段が座席の状態、上段は寝台となっている。前回利用時は上段に寝具をセットしたが、今日は私以外誰もいない(気にする必要がない)ため、下段を寝台状態にしてそこに寝具をセットしてみた。やはり下段の方が、窓が大きくて解放感がある。

@「開放A寝台下段」初体験

 車内では飲食禁止であり、本館にある無料開放スペース(テレビやレンジがある)での夕食となる。まずは別棟にあるシャワーを利用してから本館へ向かい、久慈の道の駅で買った地元の刺身などで一献を始めた。
 食べ終えたら、A寝台へ移動して就寝である。景色は動かないが、まだ明るいので長閑な景色を見放題である。

■2022.6.27
 昨晩も8時過ぎには寝入っていたため、当然4時起きである。5時過ぎには別棟でシャワーを浴びて、その後は場内を散策したりした。
 なお、ブルートレインは3両編成である。先頭の「ゴロンとシート」の行先は両側とも寝台特急「日本海」であるが、2両目のB寝台は「鳥海」と「あさかぜ」、3両目のA寝台は「北斗星」と「あけぼの」になっている。私はA寝台の北斗星側に寝たため、偶然ながら「北斗星に連泊」したことになる(註:現役時代の北斗星には開放型A寝台はなかった)。

@早朝撮影

 7時過ぎにはキャンプ場を後にして、7時22分発の路線バスで岩泉小本駅へ向かった(7時40分頃到着)。
 しばし駅構内で待ち、7時54分発の列車に乗り込んだ。やって来たのは「三陸鉄道といえばこれ」という旧型の車両であり、これに乗るのはかなり久々である(側面の外装などはかなり剥げているが)。車内はドラマ「あまちゃん」のポスターや写真で溢れているが、この車両が撮影に使用されたとの由。

@年季もの

 珍しい車両に乗車できたが、8時06分に到着した新田老(しんたろう)ですぐに下車した。ここで少し観光するためである。
 駅でしばし時間調整をして、震災遺構である「たろう観光ホテル」に行き、道の駅でわかめなどを買ったりして駅に戻って来た。
 9時22分発の列車に乗車。「ボックス席でのんびり」と思っていたが、ほぼ満席で座る場所がない。宮古で下車した客がいたのでボックス席の窓側を確保できたが、それ以上の乗客が乗って来た。立つ人もいる状態で宮古を出発し、陸中山田でツアー客がさらに増えて通路までぎっしりになってしまった。
 11時23分に到着した釜石で下車。ここからは、JR山田線の「快速はまゆり」に乗り換えることとなる。

@指定席確保済み

 回転式クロスシートであり、しかも指定券も確保しているため、先ほどとは雲泥の差の快適具合である。
 11時28分、釜石を出発した。3両編成もあり、乗客も程良く乗っているようである。バスに乗客を奪われて散々な山田線(盛岡−宮古)とは違い、こちらの釜石線(花巻−釜石)は頑張っているようである。
 13時02分に新花巻に到着し、ここで13時20分発の新幹線「やまびこ」に乗り換えた。大宮到着は15時59分。本来であればここで旅は終了であるが、今日は少しオマケ(ほぼ蛇足的なもの)がある。
 私は日本国内の鉄道(ケーブルカー等を含む)はほぼ乗車しているが、「すべて乗車したのか」と言われると「そうです」とは言えない。鉄道に分類されている乗り物のうち、埼玉県にある「埼玉新都市交通(ニューシャトル)」と千葉県にある「山万ユーカリが丘線」には乗ったことがないのである。完乗を意識すればすぐに終えられる内容であるが、そこまで拘りがないために、今日まで放置していたのである(いずれも地元民向けの鉄道であり、わざわざ乗りに行く気になれなかった。なおJR完乗にしても、新幹線の博多南線とガーラ湯沢線をかなり放置していた経験がある)。今回は夕方早い時期に戻ることができたため、ニューシャトルを片付けることにしている。
 大宮到着後、ニューシャトルの乗り場へ行き、一日券を買って往復した。これで、残すは1路線のみである。

@完乗へ向けて

 

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