【大人鐡38】JR西日本「SAKU美SAKU楽」編

■はじめに
 食事付き観光列車に乗るシリーズであるが、今回は2022年7月1日に運行を開始したばかりのJR西日本「SAKU美SAKU楽」である(読み方は「さくびさくら」)。運行区間は津山線(岡山〜津山)であり、この手の列車は渓谷や海沿いなどの路線を走行するのが常であるから、正直な感想としては「地味な路線にも観光列車が進出してきたな」という感じである。
 金土日は単独1両編成で、月曜日は定期列車に連結される形で、それぞれ2往復運行される。提供される弁当やスイーツやお土産は行先と時間によってそれぞれ異なっており、個人的には「岡山県北イロドリちらし」が気になっていたが、旅程の関係で「岡山美作かえし寿司」が提供される2号(岡山発10時50分)をsetowaサイトにて6,000円で予約決済しておいた。無事に確保できたが、座席の位置などはすべて乗車当日まで謎である。
 この観光列車自体は乗車時間が1時間半程度の短いものであるが、せっかくの三連休であるから近隣をあれこれ観光することにしている。使用する切符は、これまたsetowaサイトで購入した「岡山ワイドパス」である。岡山(一部広島を含む)のJRや私鉄やバス、船なども乗り放題で、3日間でたったの4,200円という破格のスマホ専用切符である。今回は、この切符で乗車できるすべての会社線(JR西日本、井原鉄道、水島臨海鉄道、トモテツバス、両備バス、福山市営渡船、岡山電気軌道)を制覇する、というのも地味なサブテーマである。

@牧山駅にて

■2022.7.16
 岡山までの往復は、JALで安めの切符を確保済みである。先週辺りからコロナは増え気味であるが、三連休初日ということもあって羽田空港は大混雑であった(2年前は殺人的ウイルスであったが、今となってはインフルエンザ以下なので、これで構わないと個人的には思う)。
 8時10分発の便で羽田を立ち、岡山へ。空港連絡バスに乗り、岡山駅には10時25分頃に到着した。
 今日の最初の目的地は両備バスで行ける牛窓であるが、バスの本数が少ないため、すぐに移動しても接続駅で時間が余ってしまう。昼前なので駅弁コーナーを見たりしたがどれも「いい値段」であり、すぐ横の店で小さなえびめし(岡山名物)があったので、それで軽い昼食を済ませることにした。

@B級グルメ

 食べ終えてからは、牛窓へのバスとの接続駅である西大寺へと移動することになる。スマホで切符を表示させたが、最近はこの手のスマホ切符が多くなってきている(先週の旅行で使用した宮城交通バスの切符も同様であった)。しかし、保守的な考えではあるが、できれば紙の切符も用意してほしいと思う。充電が切れれば表示されなくなるし、機器本体が壊れることも否定できない。サーバーのダウンや、先日に発生した通信障害が発生すれば同様である。紙の切符の場合は「紛失する」という危険性もあるが、上記のような心配は無用である。

@便利ではあるが

 11時24分発の列車に乗り、西大寺へと向かった。
 下車直前にスマホで切符を表示させようとすると、早速(?)表示できなくなっていた。再起動で事なきを得たが、やはり心配である。
 11時42分に西大寺に到着し、しばし待ってから11時50分発の牛窓行バスに乗り込んだ。これで、両備バスは制覇である。

@バス旅に

 赤穂線には何度も乗っているし、沿線観光もしているが(日生でカキオコを食べたりもした)、バスに乗るとなるとつい二の足を踏むため、牛窓を訪問するのは初めてである。
 30分ほど乗車して、終点の牛窓で下車した。しばし散策である。
 地味ながら古い家々が残っており、観光客は多くなく(猫は多く)、私好みの町並みであった。

@ゆっくりとした時間が流れる

 中心部分から西側の町並みも印象的であったが、東側にあった小さい造船所も趣があった。その足で歩き続け、牛窓神社へ参拝。小高い山の上にあるため長い階段を上るのが大変であったが、景色も奇麗であったし、御朱印もインパクトのある筆遣いであった。

@神社も訪問

 参拝を終えてからは山を下りてバス停に向かい、13時50分のバスで西大寺へ戻った。沿道ではスイカの直売所がいくつもあり、ここら辺の名物のようである。
 14時20分に西大寺駅前に到着し、同駅発14時42分の列車で岡山へ。快速「マリンライナー」に乗り換えて、児島には15時33分に到着した。ここまでが「岡山ワイドパス」の範囲である。
 児島はジーンズの町として有名であるが、私の目的は下津井電鉄の駅跡である。しばし歩いて、そこを訪問した。

@駅跡

 下津井電鉄は1990年末で廃止となっているが、その割には奇麗に保存されている。
 個人的には、あと10年早く生まれていれば、北海道や九州の国鉄などを含めてもっと多くの鉄道に乗れたのに、と残念な思いである。高校卒業直後の私では、ここを訪問できる財力はなかった。
 せっかくであるのでジーンズストリートも訪問して、駅近くのスーパーで夜用食材を買い、16時55分発の列車で岡山に戻った。
 岡山到着後は、岡山電気軌道の制覇である。今日のホテルは城下電停付近であり、いつもなら「頑張って歩くか」という距離でもあるが、今日はフリー切符があるため乗車する。

@今日の締め

 城下で下車して安ホテルにチェックインし、地魚の刺身などで一献してから就寝。

■2022.7.17
 SAKU美SAKU楽の岡山駅出発は10時50分であるため、それまでの時間を使って水島臨海鉄道の制覇である。
 7時過ぎにチェックアウトをして城下電停から岡山駅前まで移動し、岡山発7時34分の列車で倉敷へ。駅から少しだけ歩いて、水島臨海鉄道の乗り場となる倉敷市駅へと向かった。これに乗るのは約3年ぶりである。

@1両編成

 8時01分に同駅を出発。住宅街の中を走り続けるが、列車交換(行き違い)ができる駅での相互の路盤が異様に長いのがこの路線の特徴である(行き違う貨物列車の長さに合わせているため)。車内はそこそこの混雑であったが、終点手前の水島でかなり減り、終点の三菱自工前まで乗っていたのは、私以外はあと1人だけであった。
 さて、今日の目的地は、この先にある倉敷貨物ターミナル駅である。15分ほど歩いて到着したが、貨物ターミナルといっても貨物車両はほとんどなくて、新旧含めた客車が係留されているだけである。中でも目立つのが、国鉄カラーに塗られているキハ205である。

@目立つ

 調子を確認するためであろうか、この車両を含めてすべてエンジンが掛った状態(アイドリング状態)である。「なんだったらこのまま運用して欲しいな」と思うが、残念ながら今日は乗ることができない。
 三菱自工前駅まで歩いて戻り、9時08分発の列車で倉敷市に戻った。
 倉敷発9時40分の列車で岡山に戻り、駅の売店で酒などをあれこれ買ってから再度入場して、SAKU美SAKU楽が入線するホームへと降りて行った。待つことしばし、10時40分頃に入線してきた。

@塗装したて

 スマホの画面を見せて、早速車内へ。椅子が新しくなりレイアウトが変更されているが、暖簾が掛かっている程度であり、簡素な車内である。予約のある席にはすでに弁当などが置かれているが、団体さんのボックス席12人分と、それ以外のロングシート6人分くらいしか売れていないようであった。ただし、満席であると狭すぎるので、これくらいが丁度よいのかもしれない(もしかしたら、コロナで間引いているのかもしれない)。

@車内

 私の席は、「ボックス席を通り過ぎてお弁当が(1人分)置いてある席」ならどこでもよいとのことで、該当する2席のうち座りやすそうな方に腰を下ろした。
 席上には、お弁当と乗車記念カード、お茶、パンフレットや車内販売の案内などが置かれている。

@私の昼食

 定刻の10時50分、数人のJR職員に旗を振られて見送られながら出発した。
 出発前から気付いていたが、今回もテレビ取材が入っているという。前回はえちごトキめき鉄道の「バル急行」に乗った際にテレビ取材が入っており(拙文「【大人鐡30】えちごトキめき鉄道「バル急行」編」参照)、「絵になるのは家族連れだから大丈夫だろう」と思っていたが、結局ワインを並々と注がれている姿が全国放送で放映されてしまった。ただし、今回は鉄道の風景が中心の番組であるから、たぶん大丈夫であろう(放映は確認必須である)。
 出発すると、女性係員による観光アナウンスがあった。車内前後にある暖簾については、勝山の物であるとの由。

@出発前に撮影

 この観光列車には、弁当以外にも途中で追加されるお土産もあるが、それでは足りないということで、岡山駅で酒などを買い込んである。ということで、実は出発前から一献を始めてしまっている。岡山っぽいツマミと、瀬戸内海っぽい酒である。

@地元シリーズ

 もちろん、スナックだけでは寂しいので弁当も早速頂きたい。弁当の表紙には「かえし寿司」と書いてあるが、これはこの地方特有の仕様である。まず、掛け紙を開くとこのように「ご飯だけ」が見えてくる。しかし、これは敢えて「具が見えない」ようにするためである。

@ご飯のみ

 その理由は説明書にも書いてあるし、車内アナウンスでも説明されたが、岡山藩主が「食前は一汁一菜」という倹約令を掲げ、これに反発した町民が「豪華な具材をお重の底に敷いた寿司」を作って隠して食べたためである。
 ということで、現代では気にする必要がないため、ひっくり返して贅沢な魚介類を楽しむだけである。

@隠す必要なし

 車内アナウンスでは、路盤に寄り添う旭川のことも紹介されている。冒頭で津山線のことを「地味な路線」と表現したが、こうして見ると雄大な景色とも言える。

@これまで気にしていませんでした

 11時07分、牧山に到着した(表紙写真)。ここで10分ほど停車するということである。岡山を出発してまだ20分弱であるが、もう「山の中」という感じである。車内アナウンスで紹介されていたヒマワリ畑も遠くに見ることができるが、そこまで往復する時間はない。

@駅周辺の様子

 同駅を11時17分に出発。長閑な景色の中を走り続け、次の停車駅は福渡である(11時分38着)。ここで12分ほど停車するが、ホーム上はとんでもない数の地元民によるお出迎えであった(乗客の4〜5倍程度?)。今日は月に2回の「福ふく市」も実施中ということで、それも関係していたのかもしれない。駅前広場ではいくつかの物販店が出店中であり、駅のホーム上ではシャボン玉が舞い続けていた。

@停車中の様子

 なお私が座っているロングシートであるが、目の前の2人と隣の1人はずっと空席である。恐らくキャンセルしたのであろうが、弁当などは廃棄されてしまうのだろうし、本当にもったいないと思う。
 福渡を出発した後は、同駅で積み込まれたお土産(コーヒー、スマホクリーナー、ポストカード、飲むヨーグルトなど)が配付された。お土産には観光マップも入っていたので、そのうち別件で訪問して徒歩観光したいと思わせる集落であった。
 その後は乗車アンケートが実施され、景品としてメンディングテープが配付された。

@お土産一式(右下はメンディングテープ)

 12時22分、津山に到着した。これで観光列車は終了である。

 津山と言えば「津山まなびの鉄道館」(扇形車庫)があるが、昨年度に訪問済みであるため、今日は12時49分発の芸備線に乗ってすぐに新見へ移動してしまうことにしている。
 定刻に津山を出発。先ほどまで呑み過ぎたせいで(写真の焼酎以外にも別途買っていた)、しばらく居眠りをしてしまった。
 ふと目を覚ますと中国勝山である。古い町並みもあるため途中下車したいところであるが、ここで降りると次の列車までかなり待つ必要があるため、そのまま乗り通した。
 14時35分に新見に到着し、そこから伯備線に乗り換えて総社には15時50分に到着した。ここで井原鉄道に乗り換えるためホームを移動したが、駅名標が妙なことになっている。

@ソーじゃ

 どうやら、映画とのタイアップ企画のようであった。車両自体は、いつもの井原鉄道である。
 16時07分に総社を出発してしばらくはJRとの共用区間を走り、清音からはこの鉄道の専用区間である。比較的新しい敷設であるため、かなりの部分が高架である。
 16時36分に到着した矢掛で下車した。この近くには山陽街道の古い町並みがあり、以前にも散策したことがあるが、最近になって新しく道の駅ができたということなので、そこを訪問するためである。道の駅の営業時間は17時までであるため、急いでそこに向かった。
 道の駅といっても、物販店などがない変わった形態である。観光案内のある建物にはロビーがあるが、鉄道好きな人であれば「あれっ」と気付くのではないか。ここは、九州の特急列車や日本各地の観光列車で有名な、水戸岡氏によるデザインなのである。

@見覚えあり

 無事に道の駅を見終えてからは、旧街道にある古い家々を見て歩き、矢掛駅へと戻った。
 同駅発17時34分の列車に乗り、神辺には18時13分に到着。JRに乗り換えて福山へと向かい、スーパーで安食材を買い揃えてから安ホテルに投宿した。「一番安いところ」を探した結果であるが、キャッスルビューの部屋であった。

■2022.7.18
 6時過ぎにチェックアウトをして城付近を散策し(ただし工事中の区域が多く、天守閣にはあまり近付けず)、バス乗り場へ向かって6時40分発の鞆の浦行のバスに乗り込んだ。これで、トモテツバスも制覇である。

@鞆の浦訪問は14年ぶり

 30分ほどバスに揺られると、左手に海が見えてきた。終点(鞆港)までは乗らず、少し手前の安国寺下バス停で降り、しばし古い町並みや寺院や神社を見て回った(あれこれあったが、鞆の浦観光の詳細については余所様の丁寧な旅行記にお任せしたい)。
 徒歩観光を終えてから、仙酔島行の船が出る場所に行き、サブテーマの最後である福山市営渡船の制覇である。坂本龍馬の「いろは丸」を模しているということで、変わった見てくれの船であった。

@仙酔島到着時に撮影

 出港してから約4分で仙酔島へ。適当に海岸などを歩いたが、崖沿いの道はことごとく通行止めであったため、島滞在はたったの20分で戻ることにした。
 鞆の浦に戻ってからは、徒歩観光第二弾である。上述した通り観光案内は余所様にお任せするが、せっかくであるから一番有名であろう場所からの1葉だけ紹介したい。

@福禅寺対潮楼から

 観光を終えてからは9時08分発のバスに乗り、福山駅へ。9時40分頃に到着した。
 さて次は10時22分発の列車に乗る予定であるが、中途半端に時間がある。ということで、小腹を満たすために駅弁を買うことにした(時間も時間であるし、元より昼食はなくてもいいくらいなのであるが、これはもう旅行記用のネタ稼ぎである)。
 あれこれ見比べて、東日本と西日本のアナゴを食べ比べられるものを買ってみた。私は東日本の人間であるが、アナゴ(の料理方法)に関しては西日本が好みである。

@比較可能

 10時22分発の列車に乗り岡山へ移動し、到着後は快速マリンライナーに乗り換えた。一昨日に乗ったばかりの路線であるが、今日は茶屋町で下車し、そこから宇野線に乗り換えた。12時34分、宇野に到着した。
 ここでの目的は、屋外にいくつか展示されている現代アートである。私は芸術には疎いが、駅舎自体も含めて様々なタイプの作品があったので、楽しく見て歩いた

@一例

 しかし、個人的に現代アートより気になるのが、街中各所にある「いしいひさいちの4コマ漫画」である。前回訪問時よりも増えていたし、「ののちゃん」のマンホールまであった。
 散策観光を終えて駅に戻り、売店があったので売っている品々を見てみると、「手ヌキカレー」なるものを発見してしまった。これはもう、購入決定である。この手のお土産は500〜600円するのが常であるが、たったの300円である。

@手抜きだから?

 この後は、13時41分発の列車に乗り、茶屋町で乗り換えて岡山へ。岡山からは空港連絡バスに乗って帰るだけである。

 ちなみに、今回の旅程で利用した交通機関について、それぞれ個別に切符を買った場合を計算してみると、金額は12,090円にもなった。さすがに、私のように「乗ってばかり」の旅をする人は少ないであろうが、使いようによってはやはりお得な切符であったと思う。

@空港連絡バスも鉄分多目

 

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