惜別「100系」「300系」(おまけで私鉄とB級グルメ)

■はじめに
 話の初めから盛り下げるようなことを書いても仕様がないのだが、正直なところ、私は新幹線がそれほど好きではない。先へ先へと「移動させられている」感が否めないし、景色が綺麗であればいいのであるが、東海道新幹線は地味な都市部が多く、他の新幹線は田舎に行くにつれてトンネルばかりになってしまう。
 そういう状態であるから、新幹線が開通してもわざわざ乗りに行くことはしないし(九州新幹線の新開業部分も未着手のまま)、新しい車両が出来たからといって見に行くこともしない。
 しかし、旧いものが消えていくとなれば、少しく事情は変わってくる。新しいものは時機が合えばそのうち経験することができるが、消えてしまうものはそうはいかない。
 今春の改正で、新幹線の100系と300系が消えることとなった。前者は新幹線を代表する0系(2008年に廃止)の跡を継いだものであり、全盛期には二階建て車両の食堂車などを組み込んだ豪華な編成であったが、今は山陽新幹線の「こだま」として短編成で細々と残っているのみである。後者は初代「のぞみ」を代表する車両であり、登場してまだ20年しか経っていないが、諸々の事情(余所様のサイトやウィキペディアなどをご参照ください)で消え去ることになったのである。
 あまり親しくない友人でも、死に際の挨拶くらいはきちんとするだろう(よろしくない譬えであるが)。よって、少しだけ乗りに行ってみることにした。例によって例のごとく(このことは何回も書いているが)、廃止直前は「ご専門」の方で殺伐としてしまうため、廃止1か月前に訪問することに決めた。
 300系はいくらか選択肢が残されていたが、100系に関しては片手で数えられるだけ(休日に限っては3本だけ)しかない。しかも、明るい時間帯に走るのは岡山発6時29分の「こだま725」号だけである。これに乗るためには岡山市内に宿泊する必要があるため、旅程の組み方には難儀した。しかも日曜日に所用があるため、土曜の朝にこの列車に乗られるように組まなければならない。
 最悪、金曜の夜の新幹線で移動して夜中に岡山に着くことも考えたが、なんとか仕事をやりくりして有給を取り、金曜日はまったりと岡山近郊の観光をすることにした。さらに、新幹線だけでは味気ないため、岡山県の私鉄を訪ね、さらにはB級グルメ含ませることとした。

@新倉敷に入線する300系

■2012.2.17
 直前に予約決済したANAの朝一番の岡山便で、羽田を飛び立つ。「操縦室内にエラーメッセージが出ているため」という気持ちの悪い理由で遅延となったが、エラーといっても室温に関するものということで、ほどなくして修正して飛び立つことになった。就航してまだ間もないボーイング787であり私は初搭乗であったが、初就航から3か月以上も経っているため、室内はいつも通りの様子(朝早いため半分近くも空席)であった。
 定刻より30分ほど遅れて岡山空港に降り立ち、リムジンバスで市内へと向かった。まず制覇すべきB級グルメは、「ドミグラスソースカツ丼」である。昭和初期から岡山市内の店で供され始めたというものであり、私も出張の関係で岡山に来た際に、もう12〜3年も前のことであるが、一度頂いたことがある。懐かしさついでに同じものにしようと思っていたが、メニューを見ているうちに気が変わり、普通のカツ丼と食べ比べができるセットにしてみた。

@甘いソースは相変わらず

 食後は岡山駅へ戻り、JRで西大寺駅へと行き、そこから徒歩で西大寺へと向かった。明日(2月18日)の夜中には奇祭「はだか祭り」が行われるため、その準備の観客席などが設置されている。工事用のフェンスに囲まれた三重塔などを見たりして、適当に時間を潰した。

@はだか専用入口!

 西大寺に来たのは寺を参ることが目的ではなく、犬島へ行くバスへ乗るためである。余った時間を寺で過ごしてから、1日に4本しかない路線バスに乗って海岸方面へと向かって行った。
 旧いバスは、集落内の細い路地などにも入っていく。水門町など風光明媚なところもあり、ゆっくり歩いても面白そうなところである。10人ほどの乗客はもれなく高齢者であり、降りるバス停を乗り過ごしたりうっかり違うところで降りたり(その後に乗せ直してもらったり)、運転手を交えて雑談をしたりで騒がしい(面白い)車内であった。
 25分ほど走ってから終点の手前でバスを降り、犬島への連絡船が出るところへ向かう。小さな連絡船であるが、乗客も5人くらいしかいない。することもなく、余った時間で猫と遊んだりしていた。

@この後、ぴょんと船に乗ってしまったが、すぐ降りた

 犬島までの所要時間は8分足らず、上陸してからは、犬島アートプロジェクトの「精錬所」をゆっくりと見て回り、その後は島内を適当に散策して過ごした(特筆すべき事項はいろいろあるが、そういったものに関する感想はアートを得意とする方の旅行記を参照してください。ちなみに、現在は予約なしで見学できます)。

@晴天なり

 島を出発し、対岸についてからはバスで戻るが、またしても西大寺近辺で降りる。というのも、旧い街並みがあるということを駅の地図で見たからである。行ってみると、どうやらドラマや映画の撮影にも使われたということで、なかなか見応えがあった。もう少し宣伝してもいいと思うが、かといって有名になってしまうと垢抜けしすぎて田舎らしさがなくなってしまうだろうから、悩ましいところである。

@静かな旧い町

 歩いて西大寺駅へ戻り、JRで岡山駅へ。夕食のB級グルメは、「豚の蒲焼」である(B級を通り越してD級くらいの知名度であるが)。肉の多い「特上」を持ち帰り用に作ってもらい、スーパーで買った「ままかり寿司」などの岡山グルメといっしょに一献した。

@豚の蒲焼

■2012.2.18
 さて、やっと鐡旅である。新幹線が目的であればできるだけ長く乗ることを目標とするが、私のスタンスは最初に書いた通りである。あまり先々へ行くよりは、倉敷近辺を観光した方が楽しそうでもある。そういうわけで、乗車するのは岡山から新倉敷までの最低限区間(こうすることで特急料金が安くなる)とした。
 6時過ぎにホテルを出て、岡山駅へと向かう。まだ薄暗い6時20分過ぎに、見納めとなる100系の「こだま725」号が入線してきた。ホームには撮影目的の人たちが10人ほどいるが、まだそれほど多くはなく、子どももいたりしてゆったりとしている。これからは、段々と騒がしくなってしまうのだろうが。

@岡山駅に佇む100系

 撮り納めとなる写真を適当に写してから、車内へと入った。シートは普通席もすべて2列席に改造されており、グリーン車並みである。まだまだ新しいものだとばかり思っていたが、洗面所などの備品の「無骨さ」は、やはり国鉄の製造による車両であることを伺わせるものであった。
 定刻に出発してからは、暁の山陽道を快走していく。走り出してみれば何でもない、いつも通りの新幹線である。ガラガラの車内(私以外には2人ほどしかいない)から、最後を噛み締めるように車窓を見続けた。
 新倉敷までは、たったの12分である。先頭から降り、走り去る100系を動画に収めて、今回の目的の2分の1は終了である。

 さて、折り返しの「こだま734」号」まで、4時間ほどある。まずは、水島臨海鉄道に乗るために倉敷駅へと向かった。この鉄道には数年前に1回乗ったことがあるのだが、恥ずかしながらあまり詳細を覚えていない。よって、再度乗ることにしたのである。
 倉敷発7時18分の列車に乗り込む。車内には高校生と労働者、合わせても10人に満たないが、まだ朝も早いため通勤・通学時間でもないのだろう(そもそも今日は土曜日である)。

@工場は日本の原動力

 終着駅の三菱自工前までは約26分、折り返しの列車まで待つと時間がかかるため、10分ほど歩いた隣駅の水島から帰りの列車に乗ることにしている。
 水島のホームで倉敷行の列車の出発を待っていると、長大な貨物列車が入線してきて、東水島方面へ延びている貨物線へと進んでいった。実は往路の際に、行き違いのできる駅での複線部分がやけに長いなと思っていたのであるが(客車は1両だけであり、それらがすれ違うためにはその長さ分だけあればいい)、要するに、貨物列車ともすれ違うためにそうなっているということに今更ながら気づいた。そもそも、この路線は貨物輸送あってのものなのである。

@“主役”の貨物列車

 倉敷に戻ってからは、美観地区を適当に散策し(3〜4度目になるが、毎度何かしらの新発見がある)、寂しい商店街を経由して倉敷駅へ戻り、JRで新倉敷へと向かった。
 新倉敷発10時41分の「こだま734」号は、この駅で追い抜かれるために4分ほど停車することになっており、列車は定刻に入線してきた。ホームの端には撮影隊がいるが、その数はまだ7〜8人程度である。
 岡山行の300系は、定刻に新倉敷を出発した。外観のみならず内装もまだまだ新しく、引退させるのがもったいないとは思うが、他の利用ができないのでは仕様がないのだろう。シートも2×3であり、いつもの新幹線となんら変わらないが、それでも「これが最後」という思いで岡山までの12分を過ごすことにした。
 列車は定刻の10時53分に岡山に到着した。疎らな撮影隊に見守られながら、到着後10分くらいしてから、新倉敷方面にある車両基地へと向かって行った。その姿からは、引退という雰囲気はまったく感じられなかった。

@お疲れさま

 さて、あとは東京に戻るだけであるが、まだ昼前である。JRの在来線を乗り継ぎ、香登へと向かった。B級グルメ第三弾として、「ホルモンうどん」を食べるためである。
 ホルモンうどんは有名になってしまったが、巷で名が知られているのは津山や佐用のものである。しかし、ここ国道2号線沿いにも有名な店が多いということで、私が訪問した定食屋もそのうちの1つであった。なかなか美味であるが、やはりご飯が欲しくなる、さらに言えばビールも欲しくなるものである。

@ホルモンうどん

 しかし、私が香登に来たのはホルモンうどんが一番の理由ではない。この駅から歩いて15分程度のところにある「おさふねサービスエリア」というところに、下津井電鉄で使用されていた旧い車両が展示されているからである(下津井電鉄の詳細は、紙幅の関係で省略させていただく)。
 雪が降り始めた中、トラックの多い国道2号線を歩き続け、件のサービスエリアを見つけた。車両たち(客車2両と貨車1両)は吹き曝しの高架下に置かれており、所々朽ちているところもあったが、定期的に塗装もされているようできちんと管理はされているようである。なぜここに置かれているか、その理由はよくわからないが、それでもこのようなものが残されていることは嬉しいことである。

@製造されたのはちょうど100年前

 この後は、歩いて香登駅へ戻り、JRで岡山へ、連絡バスで空港へ行き、東京へ戻るだけである。雪模様だった空には、所々青空も復活してきた。

 

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