四国内の特急を乗り尽くす

はじめに
 2月の三連休、最初は特に出かけるつもりもなかったが、せっかくの連休、やはり鐡旅に出ることにした。きっかけは、JR四国の「バースデイきっぷ」が使えるからである。自身の生まれた月であれば、たった1万円で3日間乗り放題、しかもグリーン車も可能である(そして、私は2月生まれ)。1日当たり3,500円未満であるから、これはかなりお買い得である。
 さて、行先はきまったが、最大の難点は「テーマが見つからない」である。旅行に行くためには、それが温泉であれグルメであれ鉄道であれ、何らかの主題がなければ線が固まらない。鐡旅を行うことは決めたものの、私は四国内の鉄道はかなり前に完乗しており、その後も何回も再訪して所々は数回繰り返して乗ってしまっている。またテーマ別の旅行としても、平成13年には「橋づくし」として、夜行バスで明石海峡大橋と鳴門海峡大橋を経て、それから瀬戸大橋・しまなみ海道・かずら橋・はりまや橋をまとめて制覇する旅を実行し(だんだん橋のスケールが小さくなるところがポイントだった)、またお遍路も、平成20年と21年のゴールデンウィークに、それぞれ前半は折りたたみ自転車+野宿、後半はJR+可能な限り徒歩で「結願(満願)」済みである。
 あれこれ考えたが、結局、乗り放題の切符の強みを活かすだけの旅として、昨年11月に行った「北海道の特急を乗り尽くす」の第二弾として、四国内の特急を乗り尽くすことにした。ただ行って乗ってくるだけであるから面白い旅行記になる可能性はすでに低いが、興味のある方だけでもいいのでご覧いただければ幸いである。
 前回同様、JTB時刻表の「特急運転系統図」に掲載されている列車名を制覇することにする。<うずしお><いしづち><しおかぜ><宇和海><南風><剣山><むろと><しまんと><あしずり>である(順序は、今回制覇した順)。寝台列車である<サンライズ瀬戸>と、ホームライナーのような<ホームエクスプレス阿南><ミッドナイトEXP>は、勝手ながら含めないことにした。
 おおよその旅程を考え、切符をJR四国の「夢四国」へインターネット予約をしておいた(書留等で送付してもらえる)。なお、件の切符を購入するためには、誕生日を証明する書類を見せる必要があるが、私は免許証をスキャンしたデータをメールで送付して対応してもらった。


2011年2月11日 全国的に雪
 都心でも珍しく降雪の予報が出ていたため前夜から心配していたが、積雪はほとんどなく無事に羽田からの飛行機は飛び立った。
 徳島空港到着は、定刻より遅れること約5分の10時20分。この空港を利用するのは3回目くらいであるが、「徳島阿波踊り空港」としてターミナルが新しくなってからは初めてである。
 バスで徳島駅へ向かい、旅程のうち未確定であった部分の指定席を発券してもらってから、売店で駅弁を購入してホームへと向かう。改札を通ってすぐの2番線にはすでに「うずしお12」号が入線しているが、たったの2両編成である。しかも指定席は1号車の片隅の4列分(16席)しかない。高松まではほぼ1時間に1本程度の割合で出発しているから、シャトルトレインのような感覚で、ほとんどの人は席など指定しないで乗るのだろう。

@まずは「うずしお」から

 定刻の11時31分に、徳島を出発した。左手にはうっすらと雪を被った眉山があり、これまで何回も見てきた徳島の景色とは大きくイメージが異なっている。
 さて、まずは弁当である。徳島は1990年代に駅弁屋が撤退して以降、長いこと「駅弁なし県」(?)という不名誉な称号が与えられていたが、2003年に「阿波尾鶏」を使用した弁当が企画され(全国の駅弁を集めたイベントを行おうとしたが、徳島だけなかったので特別に企画されたという話も…)、それ以降は定期的に何かしら買えるようになってきている。揺れる車内で、地鳥の肉を美味しく頂く。

@お茶も四国物で

 揺れる、といっても路盤に問題があるわけではない。このディーゼルカーが所謂「振り子式」であるため、カーブになると自らが傾いて減速せずに曲がるからである。かなり左右に大きく振れるため、乗り物に弱い人には多少つらいかもしれない。
 車内は80〜90%近い乗車率で盛況だが、どうにもうすら寒い感じがするため、私はコートを着たままであった。四国ではあまり雪が降らないから、車両の防寒対策が不十分なのであろうか(しかしその後の特急では暑いくらいのがあったから、たまたま設定温度が低かったのだろう)。
 数少ない指定席の座席には、自由席と混同しないようにブルーのカバーが被せられている。しかしあまり目立たないため、途中駅から乗車してくる客が勘違いをし、「ここよろしいですか」「指定席ですけど」という会話が近場で見られた。自ら気づいて「あ、ここは指定席か」と独りごちて戻って行く人もいる。
 左右に車体を揺らしながら薄い雪に覆われた讃岐平野を快走し続け、栗林に近づくと少し空が明るくなり始め、定刻の12時33分に高松に到着した。
 次に乗るべきは、12時50分発の「いしづち15」号である。3両編成の特急列車はすでに入線しており、唯1両の指定席に乗り込んだ。自由席とは座席が差別化されており、車両には「S-Seat」と銘打たれている。

@新しい電車特急

 女性の車掌のアナウンスがあり、定刻に出発した。西へ西へと快走する車内でふと気付いたのだが、もしかしたら私はJR四国内で「電車」に乗るのは初めてかもしれない。JR四国は国鉄時代から長いこと非電化であり、民営化前後になってやっと一部電化された。私はそれ以降何回も四国には来ているが、非電化の区間への訪問が多く、また電化区間で乗車しても各駅停車だと旧いディーゼル車両が使われていたりで、うまいこと電車を避けていたらしい。仕事でよく使っていたのは松山から西の非電化区間であるし、プライベートで岡山まで「しおかぜ」に乗ったこともあるのだが、それは宇和島から直通する列車であったためディーゼルであった。
(ここまで書いて、数年前に高松から「サンライズ瀬戸」(=電車)に乗ったことを思い出してしまった)
 そんなどうでもいいことを考えながら、乗車すること18分、宇多津で下車した。このまま乗車しても松山まで行けるのであるが、せっかくのバースデイきっぷ、グリーン車にしておきたい。高松からの「いしづち」号にはグリーンがないが、ここ宇多津で連結される岡山からの「しおかぜ」号にはそれがあるため、すでに手配済みである。
 高架上でこちらの到着をしばらく待っていた「しおかぜ11」号は、ゆっくりと近づいてきて連結された。それの一番最後尾にあるグリーン車の乗り込むと、定刻の13時14分に宇多津を出発した。
 グリーン車に移動したが、車両自体は先ほどの「いしづち」と同じ形式である。まだ新しいため、暖房もきちんと効いていて暑いくらいである。右手には、時折海が見えたり消えたりしている。

@海際を走る

 多度津から車内販売があるというアナウンスがあったが、営業するのはその次の停車駅である観音寺までとのこと。時間にして約15分のみ、「すべてのお車にお伺いできない可能性が」というようなことも言っていたが、8両編成で15分では絶対に不可能であろう。別に私は利用する予定はないが、もう少し再考の余地があると思える。案の定、最後尾のグリーン車まで車内販売は回ってこなかった。
 松山に近づくにつれ、所々に晴れ間も見えてきた。定刻から遅れること9分、15時29分に終点の松山に到着した。
 次に乗るべき「宇和海13」号は15時26分発の予定であったが、こちらに接続するため、7分遅れの15時33分に出発した。私が押さえていた指定席は、幸運にも前方を見渡せる最前列であった。実はインターネットで申し込んだ際に、翌々日の高松から高知までの「しまんと」号のグリーン車で最前列を希望する旨を書いていたのだが、残念ながらそこは埋まっているということであった。それ以外の列車については特に希望はしていなかったが、おそらく気を利かせてその他の列車でも最前列にしてくれたのかもしれない。
 内子、八幡浜と停まるごとに遅れを少しずつ取り戻し、卯之町では2分遅れまで挽回した。次第に雲が消えて行き、いつの間にかすっかりと晴れ渡っている。卯之町を過ぎて長いトンネルを通過すると右手に大きく海が広がるのを知っていたのでカメラを構えていたが、まだ夕日には時刻が早すぎて逆光が眩しいだけの写真になってしまった。

@失敗(松山辺りで時間を潰して、次の「宇和海」にすれば良かった?)

 終点の宇和島に到着してからは、道の駅で地の魚などを買い、予約済の安ホテルへと向かった。

2月12日 順調にこなし続ける
 早朝にホテルを出て、まずは6時11分発の予土線で窪川へ向かう。所々では行き違いのため数分停まったりするため、冷え切った空気で包まれた長閑な駅を適当にふらついたりした。
 窪川には定刻に到着し、ここからは本日1本目の特急である「南風10」号で東へと向かう。雪が舞う中、中村から走り続けてきた列車が入線してきた。四国も大歩危付近では雪に降られたことがあるが、高知の南東部での降雪は初めての経験かもしれない。

@南風+雪

 昨日乗車した最新の電車に比べれば少し旧いタイプのディーゼルカーであるが、グリーン車であるから快適ではある。トンネルをいくつか抜けると、そこは土佐久礼である。3回ほど来たことがあり、小さな市場があってカツオの刺身を買ったりできるため少し降りてみたいところであるが、今回は鐡旅のノルマを満たすためそのまま乗り続ける。
 高知に近づくと、雲ひとつない完全な晴れ間になった。さすがに南国である。高知駅付近はいつの間にか高架化されていて、私の記憶にある駅舎とはかけ離れた姿になっていた。10分程度の停車時間があったためホームにふらりと降り、そこで買う気はなかったがつい駅弁を買ってしまった。高知日曜市のオバアが食べていそうな田舎寿司、という内容に惹かれて。

@駅弁その2

 高知を出発後は、大杉を過ぎて大歩危に向かうにつれて、だんだんと山深くなりまた雪模様の空になってきた。この近辺は、四国内の鉄道沿線風景では白眉の部分である。いつも思うことであるが、山あいであるのにその中腹まで家々があることに驚かされる。
 この特急は岡山行であり、前方に座っている人たちは瀬戸大橋を無事に渡れるかどうかを心配して車掌に訊いている。瀬戸大橋は風速25メートルを超えると運行中止になってしまうが、確かに今朝の宇和島市内でかなり風が舞っていたから、今日はおそらく高知の一部を除いて全体的に荒れ模様なのであろう。
 阿波池田で乗り換える私は、そんな心配は無用である。定刻の11時20分に阿波池田に着き、5分の連絡で徳島行の「剣山4」号へ乗り込んだ。最新型の電車と比べれば当然のこと、先ほどまで乗っていたディーゼル特急と比べてもかなり旧い形式である。今となってはこの一部の特急にしか使用されていないもので、遅かれ早かれ特急の運用からは外される運命にある車両であろう。

@一昔前なら「急行」扱いでよいのだが

 11時25分、阿波池田を出発して吉野川に沿って走り続ける。ずっと寄り添うわけではなく、付かず離れずで、そのうちまったく川が見えなくなってしまう。徳島線は、はっきり言ってしまえばあまり変化のない、刺激に乏しい路線である。
 2両編成で、指定席は「うずしお」と同様に4列16席のみである。最前列ではなかったが前方がそこそこ見渡せる位置であったので、適当に沿線を眺め続ける。それにしても、ガタンゴトンという継ぎ目の音が激しい。しかし都心部ではロングレールが多くなって音すらしなくなっているから、ローカル線ならではの音の響きではあろう。
 徳島には、12時36分着。眉山にあった雪は、ほとんど溶けてなくなってしまっていた。
 さて、次のノルマは「むろと」である。全区間を乗っている時間がないため、まず各駅停車で南小松島へ行き、「むろと2」号で戻って来るだけである。要するに、それに乗ったという事実を作るためだけに単純往復するだけである。酔狂な考えであるが、この旅程全般自体が酔狂であるから、特に問題(?)はない。
 取り急ぎ、各駅停車で南小松島へ。どうせなら鐡要素として小松島線の小松島駅廃駅跡でも行こうとしたのだが、折り返しする待ち合わせ時間が20分程度しかなく、無理であった。することもなく、駅前にあった狸の像を観たりして適当に過ごす。

@「むろと」が来たから、早く渡り切って〜!

 南小松島発13時51分の特急に乗り込み、徳島までは約10分。もう今日のノルマは終了であり、やっと観光要素を加えられる。
 冒頭に私がお遍路を結願したと書いたが、その後には和歌山にある高野山へのお礼参りにも行っている。しかし人によっては、「一番最初に参った寺へお礼に行く」とするものもあり、たしかに私が所有している納経帳にもそのようなページがある(しかしこれは、1番札所で買った納経帳にしかない、という噂もある)。いずれにせよ、行って悪いことはないであろうから、1番札所である霊山寺に行くことにした。そのために、すでに88寺の御朱印が記されている納経帳を持参してきている。
 14時34分発の各駅停車に乗り込み、坂東着は15時03分、霊山寺までは歩いて10分程度であった。これでもう3回目の訪問であるが、前々回車、前回は自転車であり、徒歩では初めてである。今日は一日中雨が降ったりしており、鉄道に乗るだけならば別に雨でも雪でもいいのだが、寺まで歩くのに雨は困るなぁ…と思っていたら急に晴れ間になった。これは私の普段の行いが良い、…ということにしておこう。
 納経帳の最後の部分に御朱印をいただいたが、たいていは中央部に御本尊の名が書かれるのであるが、今回は「あなたの祈願が叶った」ようなことを書いてくれたという。とにかく、来てよかった。

@霊山寺大師堂

 各駅停車の本数が少ないため寺の滞在は15分程度で坂東駅へ戻り、徳島駅へ引き返す。高松へ行く「うずしお」に乗るまで50分弱あったため城跡方面でも行こうと思っていたが、また空模様が怪しくなってきたため、結局駅付近で時間を潰してしまった。
 16時49分発、岡山行の「うずしお22」号に乗り、高松で下車。「ことでん」で瓦町まで移動し、安ホテルへ。

2月13日 任務達成へ向けて
 今日乗るべきは、「しまんと」と「あしずり」だけである。「しまんと1」号の出発は6時05分であるが、ことでんの始発に乗ったのでは間に合わないため、ホテルから高松駅へは徒歩で向かう(約25分)。昨日までの風は止み、意外と寒くはなかった。
 定刻に出発した件の特急のグリーン車で高知へと向かう、最初は暗闇であったが6時半頃に明るくなり始め、阿波池田以降は昨日に見た風景である。しかし、大歩危の峡谷や山並みなどが険しいため、飽きはない。
 高知到着は8時17分、今日も雲ひとつない晴れである。高知市も当然雨の日もあれば曇りもあるだろうが、イメージとしては晴れが一番似合っていると思う。とりあえず日曜市へ行き、「いも天」を買ってそれを道端で頂く。

@定番の一品

 さて、残るは「あしずり」に乗ることだけであるが、この特急が一癖も二癖もあり、旅程を立てる上でのボトルネックになってしまった。個別の愛称を与えられており歴史も50年以上と古いが、現在の時刻表では下り列車は13時50分発の中村行のみ、上りに関してはなんと1本もないという、しかもそのような宙ぶらりんの状態が平成15年から続いているのである。来月12日のダイヤ改正で6年ぶりに上り列車が復活するのであるが、どうせなら「南風」辺りと統合してしまえばいいのに、とは思う。
 いずれにせよ時間があるため、日曜市の後は土佐山田まで戻り、JRバスでアンパンマンミュージアムへ。特に興味があるわけではないのだが、バースデイきっぷはJRバスも使えるため、なんとなく来ただけである。再び高知へ戻ってからは、再度日曜市で田舎寿司を買い、それをつまみながら歩いて高知城へ向かって天守閣に登ったりして時間を潰した。
 暇つぶしが終わってから駅へ戻り、13時50分発「あしずり1」号に乗り込み、とりあえず乗車したという事実を作り上げ、佐川で降りた。もっと先まで行きたいところであるが、今日の夕方の飛行機で高知空港から戻らなければならない。
 折り返しの「南風20」号が来るまで、25分ほどある。これからは、近くにある酒蔵のある街並みを歩き、特急で御免まで行ってから御免の町中を適当に散策、そして「ごめん・なはり」線で立田まで行き、そこから歩いて空港まで向かう予定である。

@空港近くの道路に、なぜかいたトリ(怪我をしたのを保護しているようだった)

 

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