【大人鐡24】JR九州「36ぷらす3」編

■はじめに
 今回乗車するJR九州の「36ぷらす3」は、すでにコロナ禍にあった昨年秋(2020年10月)にデビューした比較的新しい観光列車である。九州を一周するルートが設定されており、木曜日は「博多→鹿児島中央」、金曜日は「鹿児島中央→宮崎」、土曜日は「宮崎空港→別府」、日曜日は「大分→博多」、そして月曜日は「博多→長崎」「長崎→博多」というように設定されており、車内で提供される料理や沿線における「おもてなし」も、地域の特性に準じて多種多様である。
 当然、乗車料金もコースによって大きな違いがある。この列車には、豪華な個室もあれば、普通の座席もあるため、一番安く済ませるのであれば「座席のみ(料理なし)」という手段もある。今回私は、土曜日コースの、個室(2人用個室を1人で使用)を選択した。料金は、21,000円+1人利用料金の14,000円であり、合計35,000円である。これまでの「大人鐡」シリーズでは、最高額の更新である。

 さて、言わずもがなの緊急事態宣言である。「出発地(千葉県)は“まん防”で目的地(宮崎県・大分県)は対象外」という言い訳もできるが、「宣言対象の羽田空港と福岡空港を使うだろう」と言われればグーも言えない。ということで、今回も「宿チェックインと物品購入時」以外は人と話さず、ひたすら鉄道に乗ることだけを目指す旅である。

@宮崎空港駅にて

■2021.5.15
 往路は、羽田発宮崎行のJAL便である。早朝に家を出てラウンジに入ったが、なんだか懐かしい感じである。よくよく考えたら、JAL便に乗るのは昨年末以来5か月ぶりであった。
 8時00分の宮崎便に乗り込んだが、機内の入口に、いつもの一式以外に見慣れない「しおり」が置いてあった。客室乗務員によると、「キャプテン(機長)お手製」であるという。航路図をバラバラにしてパウチしたもののようであるが、私が手にしたのは偶然にも今日午後の目的地である大分周辺であった。

@偶然

 鐡ネタ以外が続いて恐縮であるが、前日に国際線機材に変更となったためWi-Fiがなく暇であり、最前列に座っていたためラックにあった時刻表を手に取ってみると、なんと紙媒体は今号で廃止であるという。時代的に頷けることではあるが、この時刻表は私が子どもの頃(約40年前)から同じ大きさ・形であり、擦り切れるほど読み込んで架空の旅を楽しんでいたものである。当時は飛行機に乗ること自体が稀なことであり(私は実家の関係で1〜2年に1回くらいは千歳便に乗ることがあったが)、運行本数自体もあまり多くなかった。そして千歳などの遠隔便では、時間帯によっては普通席でも「軽食」が提供されるものもあり、時刻表に記載されている「軽食」や「SR」(ジャンボジェットの一種)の文字をつらつら眺めては、夢想に耽っていたものである。

@時代の変化ですか

 9時40分頃、宮崎空港に到着した。観光列車が出発するまで2時間弱もあるが、大雨も降っているため、ほとんどの時間はカードラウンジで過ごした。
 11時過ぎにJRの駅に向かい、しばし待つこと11時18分、「36ぷらす3」が入線して来た。ぱっと見はすぐ横のホームにいる鹿児島中央行の特急と同じフォルムであるが、塗装はすべて新しくなっている。今日は雨模様のため多少見難いが、「ななつ星」と同様に鏡のような塗装面(反射してこちら側が映るもの)である。

@今日はずぶ濡れ

 外装の写真をあれこれと撮り(表紙写真を含む)、車内へと入っていった。私が予約したのは3号車の個室であり、2人部屋である。しかし、スペース的には4人でも座れるくらいの広さであり、今日はこれを1人で使用するため、かなりの豪華さである。

@もちろん料金は高いですが

 出発まで20分弱あるため、まずは車内探索である。5・6号車は座席であるが、横3列であるし、意匠もかなり豪華である。4号車はマルチカーという名称であり、ラウンジのような空間である。後ほど記載するが、車内イベントはここで実施される。

@人がいない間に撮影

 車内探索を終えてからは、自席に座って出発を待った。
 座席だけではなくて窓枠や壁なども意匠に凝っており、組木細工なども非常に繊細である(マルチカーに組木の小さいものが展示されているが、その価格の高いことときたら驚きである)。
 あえて難癖を付けるとすれば、障子の部分が収納されない点であろう。私は1人だからいいが、もし2人で乗っていた場合、片方からの車窓は完全に遮断されてしまう。

@外は見難い(まぁ、景色より料理中心の列車ですけど)

 定刻の11時36分に宮崎空港を出発。しばらくして係員がやって来て説明を行い、パンフレットとマスク入れとツアー参加者用シールを置いて行った。
 さて、料理の提供は宮崎を出発した12時以降である。その際に1ドリンクが無料で提供されるようであるが、その前にまずはビールである(「とりあえずビール」的に)。私がいる3号車は、半分が2人用個室のスペースで、残り半分はビュッフェ(売店併設)である。ということで、まずは地ビールを購入してきた。

@最初の1杯

 日向夏とあるが、まさにそのままである。地ビールで後味が柑橘っぽいものもあるが、これの場合はそれが飲んだ後すぐストレートに響いてくるものであった。下品ではあるが、げっぷをすると余計に柑橘が強く感じられるものであった。
 宮崎を11時51分に出発し、12時20分頃になってやっとランチが配膳された。私がこの土曜日コースに乗ることにしたのは、旅程的に組みやすかったこともあるが、ランチの内容に一番惹かれていたからである。
 二段になっており、上段は取肴(とりざかな)三点と煮物である。どれもこれも上品であり、酒のアテにぴったりである。

@豪華ランチその1

 下段は、ご飯ものと主菜とデザートである。真鯛や尾崎牛があり、これはこれでツマミにも成り得る内容である。
(なお写真には写りきっていないが、真鯛のお吸い物と飲み物も配膳されている。飲み物は日本酒を選択したが、「食前酒程度の量だろう」という予想に反し、コップで結構な量が配膳された)

@豪華ランチその2

 日向夏のビールとコースに入っている日本酒と共に食べ進めたが、当然のごとくすぐに酒切れである。緊急事態宣言により福岡県内を走行中はアルコールの販売が自粛されるようであるが、幸いにも今日は宮崎県と大分県である。ということで、同じ車両にあるビュッフェのカウンターに行って日本酒を追加購入してきた。熊本の酒である。

@続けてこれに

 車内では、沿線に関する観光案内も時折行われている。日向灘などは予想通りであるが、リニア実験線の紹介もあったことには少し驚いた(私のような人間はこの路線を乗る際に必ず気にするが、一般向けのネタではなさそうであったので)。
 13時20分、延岡に到着した。ここで10分の停車時間があり、ホームでは地元の品が売られていた。
(真っ先に下車して撮影。この後、ミニ売店は乗客で賑わっていった)

@大雨です(天井があって良かった)

 出発のベル(人力によるベル)が鳴り、延岡を出発。4号車で沿線に関するビデオ上映があるというアナウンスがあったので、マルチカーへと向かった。
 これから宗太郎越えに掛かるということで、まずはその紹介ビデオであった。今は何もない重岡駅であるが、最盛期には600人の乗降があり、駅関係者は60人、駅周辺には旅館5軒と料亭2軒があったということであった。今となっては信じがたい話である。

@今は単なる峠

 続いての停車駅は、宗太郎である。秘境駅としても有名であり、楽しみにしていたのだが、日本酒の飲みすぎでうっかり寝過ごしてしまった。気づいた時には、出発の人力ベルが鳴っている時であった(無念)。
 14時30分頃、宗太郎を出発した。峠区間を過ぎ、重岡到着は14時35分。今度こそきちんと下車しなければならない。
 重岡駅では地元の人が「おもてなし」として臨時売店を設置してくれるのだが、今日は大雨のためそれがなかった(その代わり、地元の品はマルチカーで販売された)。

@重岡駅

 ここで25分ほど停車するため、小さな駅舎を出て道路まで行ってみた。どこをどう見まわしても、「旅館5軒、料亭2軒」という繁栄があったとは思えない場所である。
 雨の中散策をしてから車内に戻り、すぐにマルチカーに向かった。というのも、事前にネットであれこれ調べており、本来ならホーム上で販売されるはずの「生どら焼き」が気になっていたからである。
 今日は乗客が少ないこともあり、無事に400円でそれを入手した。

@甘いものは別腹

 軽いクリームであり、栗の印象が強く残る代物であった。
 多くの地元民に見送られながら、同駅を14時59分に出発。さて、続いては「車内体験」である。土曜日コースの場合は有料であるが、梅酒(もしくは梅シロップ)の作成体験ができるというもので、出発後に申し込みをしてある。
 15時過ぎにマルチカーに向かうと、なんと申し込んでいたのは私を含めても2人だけであった。まずはビデオと口頭による説明があり、続いて2種類の梅(南高梅と鶯宿梅)のジュースを飲み、好みの方を選ぶ。

@こんな一式

 私は鶯宿梅を選んだ。アルコールも3種類から選べるが、無難にホワイトリカーを選択した。
 説明されるままに、梅のヘタを取り容器に入れ、金平糖と角砂糖とアルコールを入れた。ただ混ぜるだけであるため、これで終了である。飲めるようになるのは1年後であるため、それまでお預けである。

@完成

 車内イベントとしては面白いが、2,000円はちょっとお高い感じがする。しかし、思い出作りと思えば充分であろうか。
 自席へ戻り、後は車窓を見ながら終着駅到着を待つばかりである。しかし、16時30分頃からまたビデオ上映があるというアナウンスがあったので、マルチカーへと向かった。ちょっとしたクイズもあり、ほのぼのとした時間であった。

@沿線情報いろいろ

 その後は、大分に16時49分に到着し、終着の別府には17時05分に到着した。豪華な観光列車の旅も、終了である。
 さて、この「大人鐡」では、サブテーマとして「大人グルメ」も時折実施している。今回の旅を思い付いた時、当然のごとく「関アジ・関サバだな」と思って地元の居酒屋情報を収集したのだが、コロナのこの状況では正直なところ居酒屋などに行く気分になれない。結局のところ自粛して、スーパー食材になってしまったが、ブリの「りゅうきゅう」や地元の鯛、大分らしい「とり天」や「鶏めし」を買いそろえれば、これはこれで充分であろうと思えた。

@思い出としては充分

■2021.5.16
 本来の旅程では、今日は昼前に大分空港から成田に飛ぶLCCで帰る予定であった。しかし、緊急事態宣言による乗客減に伴い、LCCの便が欠航に。代替手段をあれこれ考えたが、JALやANAの大分便はかなりの高額である。結果、同じLCCで福岡空港から帰ることになった。別府から博多までの移動料金が別途必要になるが、JR九州の場合はネットでかなり安く買えるため(今回の場合、たったの2,550円)、大分空港までのバスが意外に高いことを勘案すると、本来とあまり変わらない額で帰ることが可能となった。
 別府発は9時19分でありかなり余裕があるため、早朝は市内散策である。

@こんな鐡ネタを拾った

 安宿に戻って温泉に入り、駅へと向かった。大分方面からやってきたソニック号は、青い方であった。
 車内に乗り込み、定刻に出発。さて、今日はただ乗るだけであるため、駅付近の市場にある店で仕入れてきた巻き寿司とコロッケで一献である(グルメサイト等の記事を読んでおり、気になっていた店のもの)。アルコールはコンビニで適当に買おうと思ったが、九州(大分)らしい2品を見つけたので、それに決定。ということで、昨日とは違ってチープな感じであるが、こちらの方が私の日常に近い感じである。

@B級的に

 それにしても、日豊本線はよく揺れる(振り子式列車が走るから当然であるが)。うっかりすると机の上の品々が落ちそうになるので、手で押さえていなければならない。
 小倉の手前で一式がなくなり、後は酒の影響でウトウトと。ふと目が覚め、「そろそろ博多かな」と思ったが、なぜかまだ折尾であるという。なんと、博多駅で人身事故があって遅延しているという(この時点で30分の遅延)。福岡空港では1時間の余裕を見ていたが、そこからマイナス30分=30分では、チェックイン締め切りギリギリである。LCCの窓口に電話をして確認したところ、そもそも緊急事態宣言(福岡県は対象)の特例として1回だけなら無料で変更可能ということであった。
 時計を見ながら、一路博多へ。ギリギリ間に合いそうであったが、博多の手前の吉塚で赤信号による臨時停車があり、ここでアウト確定である。
 結局、12時40分の便から17時30分の便に変更をした。余った長大な時間は、空港のカードラウンジである(元からこの便であれば、別府観光でもしてから移動したのにと思うが、後の祭りである)。この旅行記を作成して、アップロードまで終えてしまった。

@折尾駅にて

 

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