羊をめぐる鐡旅

■はじめに

 2012年の年末年始、私は英国へ旅行をした。旅自体は良いものであったが、一つ失敗した点は「冬の欧州は日が短い」ということを忘れていたことである。朝8時過ぎまで薄暗く、夕方も4時くらいには日が暮れてしまうため、「のんびりと鉄道に揺られて景色を眺める」という鐡旅には向かない。おかげで、イングランド地方よりさらに日が短いスコットランド地方の鉄道は、ほとんど手付かずにしてしまった。
 今年はその教訓を活かし、南半球へ行くことにした。一番有名なのはオーストラリアの鉄道であり、世界最長の直線区間や、砂漠や平原を走り続ける車窓にも魅力を覚える。しかし調べてみると、豪華車両で他の乗客と懇親を深めながら、という意味合いが強そうであり、私のような貧乏一人旅には向かない気がしてきた。

 そこで、少し地味ではあるが、ニュージーランドへ行くことに決めた。時期的に直行便は高いため、2月のうちにシンガポール経由の飛行機を押さえてある。
 さて、問題は鉄道である。人口の少ない国であるため鉄道は風前の灯であり、あまり種類も本数も多くはない。世界最南端の駅であったインバーカーギル駅までの路線などは、2002年に旅客営業が廃止されてしまっている(貨物列車は残っているようだが)。しかしだからこそ、年末年始だけで同国内のほとんどの列車に乗車することも可能ではある。
 一番有名なのは、オークランドから首都ウェリントンへ向かう列車「ノーザンエクスプローラー」号である。この列車には、鉄道紀行で有名な阿川弘之氏も乗車している(当時は「シルバーファーン」号で、1991年からは「オーバーランダー」号として走り続けていた。乗客減のため2006年頃に廃止の危機に晒されたがなんとか継続し、2012年からは現在の「ノーザンエクスプローラー」になっている)。
 この国を代表する長距離列車であるが、その運行本数は「1週間に3往復」だけである。つまり、1つの編成が毎日片道運転をし(片道の所要時間は約10時間)、週に1日は休みというスケジュールである。
 そういう状況であるから、旅程に柔軟性は加えられない。いずれにせよ、旅程は以下の通りにした。

1日目:早朝の便でシンガポール(チャンギ空港)へ。夜の便でオークランドへ(機内泊)
2日目:昼過ぎにオークランド着。MOTAT(輸送技術博物館)へ行って保存トラムに乗車(オークランド泊)
3日目:オークランドからウェリントンまで「ノーザンエクスプローラー」号で移動(ウェリントン泊)
4日目:ウェリントン近郊列車とケーブルに乗車(ウェリントン泊)
5日目:フェリーで南島へ移動。その後、ピクトンからクライストチャーチまで「コースタルパシフィック」号で移動(クライストチャーチ泊)
6日目:クライストチャーチからグレイマウスまで「トランツアルパイン」号で往復(クライストチャーチ泊)
7日目:長距離バスでダニーデンへ移動。博物館で鉄道小ネタを収集(ダニーデン泊)
8日目:タイエリ渓谷鉄道に乗車。空路でクライストチャーチへ(クライストチャーチ泊)
9日目:昼前の便でシンガポールへ。夜の便で羽田へ(機内泊。翌日早朝に羽田着)

 今年は巡り合わせが良く年末年始は最長で9連休となるが、それを最大限に活かした旅程である。

 ちなみに今回の旅行では、飛行機や長距離列車のみならず、ホテルはもちろん、空港からの連絡バスやシャトルもすべて「インターネットでの事前予約決済」であった(現金で支払ったのは、オークランド市内の路線バスとクライストチャーチ空港からの連絡バスのみである)。すべてが予約通りでトラブルもなく、便利な時代になったものである(事前に自力であれこれ調べたり予約したりするのは、それはそれで大変であったが)。

@カイコウラ駅にて

 前編(1日目〜5日目)

 後編(6日目〜9日目)

 

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