白夜特急(ノルウェー編)

はじめに
 今回の鐡旅は、初めての北欧である(そもそも欧州自体、英国しか行ったことがないのであるが)。
 昨年の年末年始に英国に訪問して思ったことは、「欧州に冬に訪れてはいけない」ということである。特に私のように、移動をしながら景観を楽しむ人間にとって、日の出が遅く日の入りが早い欧州の冬は、正直なところ魅力半減である。そこで今回は極端な例として、夏至に近い日時に北欧を訪れることにしたのである。北極圏も越えていくので、一日中日が沈まない白夜も体験できる。
 ノルウェーといえばフィヨルドのクルージングなどに惹かれるが、日程の都合上、それらはパスして鐡ばかりの旅となる。欧州最北の駅であるナルヴィクからはスウェーデンに行き、地方へ行く路線なども乗車。夏休みの長さとの兼ね合いから、フィンランドは次の機会にすることとした。

【旅程】
1日目:0時40分羽田発の便でパリへ(機内泊)。早朝にパリ到着。4時間弱のトランジットでオスロへ。到着後はオスロ市内観光。深夜にベルゲン行に乗車(車内泊)
2日目:ベルゲンからミュルダールまで戻り、フロム鉄道乗車(往復)。再びオスロへ(オスロ泊)
3日目:北上し、ドンボスで乗り換えてラウマ鉄道でオンダルスネスへ。ドンボスまで戻り、トロンハイムへ。深夜にボードー行に乗車(車中泊)
4日目:ファウスケで下車し、バスに乗り換えてナルヴィクへ移動(ナルヴィク泊)

(5日目以降は、「白夜特急(スウェーデン編)」をご覧ください)

@フィンセ駅にて

■2013.7.3
 火曜日(7月2日)の仕事を終えてから旅支度をし、羽田空港へと向かった。良く寝られるようにラウンジでタダ酒を煽るように呑み、酔いどれたまま機内で就寝。
 シャルル・ド・ゴール空港到着は、6時頃であった。フランスに足を踏み入れること自体初めてなので出国して何かしら見たいところであるが、4時間弱では如何ともしがたい。結局、小さな別のターミナルにすぐ移動して、PCをつついたりして時間を潰した。
 9時25分過ぎに、オスロ行の飛行機に乗り込んだ。座席が横4列の、小さな飛行機である。

@レンズ用フィルターを使ったのではなく、搭乗口近くのガラスに色が付いていたため

 オスロには、12時10分頃に到着した。ムンク生誕150年ということで、空港内にも彼の絵画のコピーがたくさん貼られていた。
 さて、この空港(ガーデモエン国際空港)からはノルウェー国鉄(NSB)でも移動することができるが、せっかくなので空港連絡鉄道(フリートーゲ)を利用することにした。
 窓口で「クレジットカードで改札を通れると」言われたのだが、私が持っているものはどれも読み込めなかった。結局、券売機でカードを利用して切符を買い、それで入場した(事前に調べた限りでは料金は170クローネであったが、切符の価格が130クローネであった。間違えて買ってしまったのかと思ったが、後になってホームページで調べたら“Summer prices throughout July 2013”ということであった)。

@ノルウェー初鐡(写真はオスロ中央駅到着後)

 かなりの速度を出しているにも関わらずかなり安定しており、音も静かである。ただし、乗客は驚くほど少ない。オスロ中央駅までの所要時間は、たったの20分であった。
 さて、今日は23時23分発のベルゲン行に乗るまで、かなりの時間がある。いくら芸術に疎い私とはいえ、オスロに来てムンクの「叫び」を見ない手はない。そこで、とりあえず国立美術館へ行って彼の作品群をじっくりと鑑賞した。
 その後は市内を適当に歩き回り、大聖堂や市庁舎近くの海、アーケシュフース城などを見て回った。

@北欧(特にノルウェー)といえば、これ

 駅へ戻り、ネットで予約決済してある切符を券売機で発券する。英語のメニューもあるし、機械の近くに係員がいて操作手順を教えてくれたので、困らずに済んだ(ほとんどのノルウェー人は英語ができる)。

@こうして見ると壮観

 19時半を過ぎ、駅構内にあるスーパーに行った。というのも、ノルウェーはアルコール販売に厳しい国であり、ビール以外のアルコール度数の強いものは、国の管理する販売店でしか手に入れることができないのである。ビールも一部のスーパーにしかなく(コンビニにはない)、しかも、販売時間が平日は20時まで、土曜は18時まで、日曜は終日販売不可なのである。
 そういうわけで、まずはビールの入手である。呑み始めるのは、列車の出発時刻から逆算すると22時前くらいなのだが、少しくらいぬるいビールでも、ないよりはマシである。「買ってすぐに飲めばいいではないか」と言われそうだが、極度の時差ボケ+歩き疲れの状態でアルコールを飲んで、その後2時間以上も起きている自信がないのである。
 ビールと食材を購入後、しばらく待合室で無線LANでネット検索をしてから、22時少し前からベンチで呑み始めた。
 23時少し前にアナウンスがあったので、ホームへ降りていった。ノルウェーでの本格的な鐡旅の始まりである。

@雑誌等でもおなじみ、ベルゲン急行

 編成は機関車を先頭に、寝台車が3両、1両の食堂車(簡単な売店のみ)を挟み、3両の座席車の合計7両である。
 昨日も機内泊なので疲れており寝台車に乗りたいところであるが、今日に関しては座席を押さえてある。寝台にすることによる差額(約1万3,500円)が惜しいのもあるが、実はトロンハイムからの夜行で個室を押さえてあるので、せっかくだから座席も体験しておきたかったのである(私も、若いころは急行「八甲田」や「津軽」の座席夜行を利用したものである)。
 指定席は、発売日(3か月前)に押さえてある。最安の割引切符(払い戻し不可)で買えば、値段はたったの249クローネ(約4,000円)であり、物価高のノルウェーにしては格安となる(定価の場合は815クローネ)。

@今日の寝床(お姉さんの背中が丸見えですみません。顔は写っていないのでお許しを)

 眠いし疲れているので、すぐに就寝。幸い隣りに誰も来なかったので、かなり窮屈だが少しだけ横になることはできた。

■2013.7.4
 目が覚めると、3時50分頃であった。緯度が高いのでもう外は明るい。山と湖が見え、所々に残雪を見ることができる。外部の温度を示す車内の温度計は9℃を示していた。
 4時00分、この路線の最高地点となるフィンセ(標高1,222メートル)に到着した。カメラ片手にデッキで外を見ていると、ちょうど車掌が作業のためにやってきた。そして私の方を見て、英語で「数分あるから、どうぞ」と言ってくれたので、ありがたくホームへ出て駅前の湖などを写真に収めた

@曇っているのに絶景なり

 駅のホームには、無数の貸自転車が置かれている。天気の良い日に途中下車して、付近を走ったらさぞ気持ちが良いであろう。
 列車は同駅を4時07分に出発した。氷河の景色は続き、温度計はいつの間にか5℃まで下がっている。そのうち峠越えになったようで、長大なトンネルに入っていった。
 4時36分、観光路線として有名なフロム鉄道が分岐するミュルダールに到着した。あと数時間後にはここに戻って来る予定である。標高は、一気に866メートルまで下がってきた(なぜわかるのかというと、駅名標の横に標高が書いてあるからである)。
 5時23分着のボスでは57メートルとなり、そして終着のベルゲンには定刻より5分早い6時46分に到着した。

@荘厳な駅舎

 さて、早着したとはいえベルゲンでの滞在時間は1時間と少しだけである。急いで瀟洒な建物で埋め尽くされた街並みを眺めつつ歩き、世界遺産であるブリッゲンの歪んだ建物を見たりした。街中は美しい建物が多過ぎて、同じような写真をたくさん撮り過ぎてしまった。

@世界遺産

 駅へ戻り、フロム鉄道に乗るためにミュルダールへ戻ることにする。先ほどまで乗っていた夜行列車は機関車が牽引する客車であったが、今度の列車は残念ながら電車である。なぜ「残念ながら」なのかというと、この車両は欧州にありがちな固定式の椅子であり、半分の確率で後ろ向きで座らなければならないからである。

@見た目は格好いいのですが

 車内に入ってみると、運が悪く進行方向と反対向きの席で、しかも横がほとんど壁(窓と窓の間)という席であった。仕方がないので、出発後は首を曲げて斜め後ろを見るようにして景色を眺め続けた。
 ミュルダールには、少し遅れて9時54分に到着した。乗り換えるべきフロム鉄道の出発まで小一時間ほどあるため、しばらく駅周辺を散策した。
 特に何がすごいというわけではないのだが、もう駅周辺の景色ですら日本では見ることのできない景色である。貸自転車や徒歩でフロムまで行く人も多く、私もオスロに住んでいれば週末にはこういうところにハイキングに来るであろう。

@すでに感動(まだフロム鉄道には乗っていない)

 10時40分を過ぎて、フロム鉄道が入線してきた。結構長い編成であり、半分以上は団体客用の車両である。
 まだ切符を買っていないが、ミュルダール駅の店員に訊いたところ「車内で買える」ということであったので、私は団体用の名前が書かれてない車両に乗り込み、「景色が綺麗」という情報を元に進行方向に向かって左側の席に座った(席は自由席)。

@出発前

 10時55分、列車はミュルダールを出発した。すぐに左手に大きく視界が開け、迂回をしながら山間を縫って行く。3つ目の駅はショース滝の目の前にあり、ここで数分の下車が可能である。
 水しぶきが大量に舞っており、なかなかうまく撮影ができなかった。しばらくすると怪しい衣装を着た金髪の女性が歌に合わせて滝の傍で踊り始めた。このことはネット上の情報で知っていたのだが、実際に目にすると「あれは何だ?」と思わされる。同じ衣装の女性が違う場所に急に移動するので瞬間移動をしているように見えるが、実際は似たような恰好をした2人が入れ替わっているのであろう。

@お姉さん(山の妖精=実際は演劇学校生のアルバイト)は右側の建物付近に現れる

 同駅を出発後も絶景が続くが、やはり調べていた通りに左側の方が圧倒的に見どころが多い。右側については、アナウンスがあったときだけ覗きに行けば充分である。
 残念ながら曇り模様であったが、それでも充分に堪能して、終着のフロムには定刻の11時50分に到着した。この町はベルゲンから100キロ以上も内陸にあるが、駅の目の前には私がこれまでに見たこともないような巨大なクルーズ船が停泊している。つまりそれだけ、フィヨルドが深く険しいということなのであろう。

@駅前の賑わいと巨大な船

 ちなみに、私のようにノルウェー国鉄でミュルダールまでやってきて、フロム鉄道に往復で乗る人はほとんどいない。たいていは、クルーズ船を組み合わせてツアーを組んでいるのである。
 折り返しの出発まで30分ほど時間があるので、まずは駅近くにある鉄道博物館に行ってフロム鉄道の歴史を学び、その後は沿岸を散策したりした(湖と書きそうになったが、フィヨルドなのでここは海なのである)。
 再び車内に乗り込み、来た時の車内の様子を踏まえて、窓の空く席に陣取った。こうすることで、綺麗な写真を撮ることが可能になるからである。

@復路はひたすら登り続ける

 再びミュルダールへ戻り、今日は後はオスロへ帰るだけである。14時00分発の指定席を押さえてあるが、やってきた列車は電車ではなく客車の方であった(よって、後ろ向きになるリスクはゼロである)。氷河の景色を楽しみつつ、オスロまでの約5時間の道程を堪能した。
 さて、ノルウェーの物価高は旅行者泣かせである(500mlのコーラが、空港で約600円、コンビニで約380円、スーパーでも約280円である)。ホテルも高い所ばかりであったが、ネットでなんとか安いのを探してそれを押さえてある(それでも8,500円ほどし、アメニティはタオルだけである)。外食などできないので、駅付近のスーパーでサーモンやビールなどあれこれ買い、ホテルに投宿して今日を締めくくった。

@スーパーで安く済ませ…られません(これで約3,500円)

■2013.7.5
 昨日までは多少残念な空模様であったが、今日は晴れそうな感じである。雲の合間からは、少しだけ青空も覗き始めている。
 7時30分過ぎにチェックアウトし、オスロ駅まで10分ほど歩いて行った。駅構内からホームへ向かい、本日最初に乗るべきトロンハイム行の車両を写真に収める。残念ながら電車であり、そして今日も「進行方向と反対で横がほとんど壁」という席であった。
 朝のラッシュのため列車の出入りが多いためか、定刻より3分遅れの8時05分に出発した。しばらくすると左手(私は逆を向いているので右手)には、湖が広がり始める。この湖はリレハンメルまで続くのであるが、雲の多かった空もじきに快晴になっていった。

@なかなかの景色

 リレハンメルを過ぎると山間ぽくなり、私が乗り換えるドンボスには定刻から24分も遅れた12時28分に到着した。ラウマ鉄道の出発時刻は12時09分であったが、きちんと接続を取って待ってくれている。
 列車は、12時32分に出発した。指定された席は進行方向と逆向きであったが、空いていたので他の席にすぐに移った。
 動き出してわかったのであるが、北欧に来て初めてのディーゼル車である。観光路線らしく窓も大きく、左手には大きな谷が開けている。

@牧歌的風景

 盲腸線なのでローカルな乗り物を予想していたのであるが、車両は最新式であるし、路盤も良くてスピードもかなり速い。「ガタンゴトン」というような音はどこからもしない。
 車内では自動音声による観光案内も3か国語(ノルウェー語、英語、ドイツ語)で流れており、私のような観光客には立派なガイドブックも配られた。こちらは7か国語であり、日本語も含まれている。
 Bjorliを過ぎて長めのトンネルを抜けると、列車は高台で一時停止した。息を呑むような壮大な眺めである。

@写真では伝わらないかもしれませんが

 その後も見どころの連続であり、古く歴史のある橋や滝のある場所でも列車は一時停止をした。乗客にはもちろん一般客もおり、小さな犬が私の前の席でこちらを見詰めている。

@犬も景色に釘付け?

 ガイドブックなどではベルゲンまでの路線やフロム鉄道がよく取り上げられており、それはそれで観光要素を充分に満たしているが、個人的にはラウマ鉄道の方が変化に富んでいて面白いと思える。日本ではあり得ないくらい規模の大きいS字カーブなど、鐵的要素も満たしている。
 高台から下り切り平地になると、両脇には見上げると首が痛くなるほどの大きな岩が連続していく。未だに山奥にいるような気分になってしまうが、終点はすぐ先であり、海抜はほとんどない。フィヨルド地形の鋭さを体験できる。

@険しい地形

 13時54分、終点のオンダルスネスに到着した。スイスの山奥にいるかのような景色であるが、駅前にあるのは湖ではなく海である。駅周辺には観光バスが数台停まっており、乗客のほとんどはそれらに吸い込まれていった。

@到着

 さて、まだ昼過ぎであるが、やるべきことは「夜のためビールの確保」である(トロンハイム到着が21時前であり、ビールが買えない時間帯でるため)。
 スーパーの場所は知らないが、プリントアウトしてきたグーグルマップ片手に街を歩き始めた。長閑な雰囲気であり、短い夏を満喫するためか、各家庭の玄関や庭先は各種の花で例外なく埋め尽くされている。
 少し高台になっているところでスーパーを発見しビール等を入手し、その後は野良猫と遊んだりしながら適当に街を歩き続け、駅へ戻ってきた。

@ローカル駅(列車は、平日でも1日4往復)

 復路のドンボス行は15時31分発の予定であったが、対向列車が遅れているためこちらの出発も遅れるようである(ラウマ鉄道は単線)。結局、17分遅れでオンダルスネスを出発した。
 車内は中国人観光客などもいて超満員である。ところが、往路時のような観光案内はなく、ひたすら快走し続けており、滝や橋でも一時停止すらしない。どうやら、ドンボスで接続する列車があるようである。
 それにしても、走る速度や一時停止の有無だけで、これほどイメージが違うものかと実感した。せっかくの壮大な景色の魅力が半減である(私は往路を経験しているからいいものの)。

@景色自体が変わるわけではないですが(復路は残念ながら通路側の席)

 ドンボス到着は17時04分で、向かいのホームには17時01分発のオスロ行が待ち合わせていた(これとの接続のために、オンダルスネスからの団体客は観光アナウンスを聞けなかったわけである)。
 トロンハイム行の出発まで小一時間あるため、坂を下って少し歩き、そこにあった旧い教会やドライブインのような施設(スーパー等)を見て時間をつぶした。
 18時08分発のトロンハイム行は、20分以上遅れて入線してきた。座席方向の杞憂がない客車であるが、昨日乗車したのとは少しタイプが違うようである。

@こんな感じ

 同駅を18時31分に出発し、終着のトロンハイムには定刻から25分遅れの21時09分に到着した(さっくりと略してしまったが、ドンボスからトロンハイムまでの沿線もすばらしい景色の連続であった。ラウマ鉄道と比較すると可哀そうなので、略したまでである)。
 緯度もかなり高いところまで来たため、まだ陽は高く夕方のようである。

@高架橋から見渡す(駅は改装工事中)

 明るいおかげで、まだまだ市内観光が可能である。ニデルヴァ川の傍に連なる家々、旧い跳ね橋、クリスチャン要塞、その近くにいた猫、ニーダロス大聖堂、王宮を見て回り、22時半頃に駅に戻ってきた。観光案内は他の方のブログにお任せするが、それにしても、ニーダロス大聖堂の正面の彫刻群は、これまで私が数多く目にしてきた大聖堂の中でも特筆すべきものであったと思う。

@圧巻

 小さな待合室は他の乗客で占められていたため、ホームに行って入線を待っていた。待つことしばし、23時頃にボードー行の列車が入線してきた。
 今日は奮発して、個室寝台を押さえてある(正確には、2人用の部屋を1人で使用する)。宛がわれている号車は10号車で、どうやら最後尾のようである。これなら、最後部からの眺めも満喫できそうである。
 編成は、機関車を先頭に座席車×3、食堂車(売店のみ)、座席車×1、寝台車×2の7両であった。

@わんこは禁止の車両(車両によって、動物の扱いが異なる)

 ドアが開いたので中に入ってみたが、指定されたドアは鍵が掛かっていて入ることができなかった。他の乗客はカードキーを持っているので、あれをもらいに行かなければならないようである。部屋の入口には英語で、「食堂車にいる車掌からもらってください」とある。食堂車に行ってみると、係員が「切符を買ったところ(=駅構内)で受け取って」ということで、少したらい回しにされてしまったが、無事に鍵を手にすることができた。

@簡易な鍵

 いそいそと個室内に入り込む。車内はまだ新しく、小さいが洗面所も完備している。無料の水とチョコレートも2個ずつあり、なかなか快適である。リネンはすでにセット済みであり、洗面近くにはコップやハンドソープも備えられている。
 すぐに室内着に着替えて、オンダルスネスで買った食材等を机の上に並べて、出発を待たずに一献の開始である。

@個室は快適

 定刻の23時40分、列車はゆっくりと動き出した。酒を飲みつつ小さな窓から外を眺めていたが(難点を言えば、この車両は窓が小さい)、24時を過ぎてもまだ明るい状態である。これまではやたら大平原や丘陵の景色が多かったが、意外に人家が多い区間が続いていった。
 足元でチリチリ音がするので何かと思ったが、どうやら暖房のようである。そういえば、7月とはいえ少し寒かったので、先ほど空調のツマミを回したのであった。

■2013.7.6
 5時頃に起床、もちろん外は明るい。曇り(若干の小雨模様)であり、辺りに何もない平原の中を走り続けている。

@最後部より撮影

 平原が続く景色をぼんやりと眺め続けていると、モ・イ・ラーナには定刻より2分早い6時03分に到着した。久々の再会なのであろうか、ホームで抱き合う人々を眺めたりして、同駅を定刻の6時08分に出発した。
 その後は、廊下に出て反対側の景色を眺めたりした。日本の寝台車の廊下にも小さな簡易椅子があるが、この車両の椅子はそれぞれが2人以上は座れそうな細長いものである。
 平原を抜け、列車は岩の多い尾根沿いの高台のようなところを走り始めた。

@同様に最後部より

 しばらくの間高台を走り続け、次第に下っていき、平地になったところでRoklandには定刻の7時48分に到着した。その後も小さな駅に停まり、左手には海(どうしても湖と言いたくなる)が見え、しばらくすると私が乗り換えをするファウスケであった。8時26分の到着である(同駅出発が8時30分なので、定時運転であろう)。

@楽しかった寝台も終了

 この路線の終着はボードーであるが、ナルヴィクへ行くためにはここでバスに乗り換える必要がある。かなりの人数が下車し、私が乗るべきナルヴィク行のバスにも数人が行列していた。ただし1台だけであり、思っていたよりは多くはない(後でわかったのだが、このバスは他の行先も共有しており、実際にナルヴィクへ行く人間はさらに少なかった)。

@バスに並ぶ(乗車時に料金を払うため)

 バスに乗り込んで料金を払おうとすると、事前に調べていた260クローネにさらに35クローネが追加されてしまった(これについては、後で理由が判明した)。運転手は英語で、「乗り換えが必要なので、後でアナウンスしてあげる」と言ってくれた。
 車内はすでに8割以上埋まっていたが、それを口実(?)に最前列の空いているところを詰めてもらい、そこに座った。眺めは一番の場所である。
 バスは8時50分に出発し、田舎町の道路を快走していった。

@対向車発見

 10時30分頃、小さなホテルとスーパーのある駐車場でトイレ休憩があった。
 再出発後も、平原の中を走り続ける。小さな停留所(目印等は何もないが)では、小さなマイクロバスと連絡しているようで、降りた乗客がそちらに乗り換えたりしている。
 11時23分頃、名も知らぬ停留所に停まり、「ナルヴィクは乗り換え」というアナウンスがあった。目の前には「NARVIK」とだけ大きく行先を示したバスがあり、どうやらこれに乗り換えるようである。
 しかし、実際に乗り換えたのは私を含めても8人くらいであった。それまでのバスに残った40人くらいは、ソートラン(Sortland)方面へ行くようである(後になってグーグルマップで調べたら、とてつもない場所であった)。
 乗り換えが終わるとバスは出発し、ナルヴィク行のバスはソートラン行のバスのすぐ後ろを追っていった。すると前方のバスはフェリーターミナルに入り、駐車の列に並んだ。どうやら、あちらはそのままフェリーに乗ってしまうようである。
 …と思っていたら、こちらもすぐ隣にあるターミナルに入っていった。ということは、こちらも船に乗るということらしい。

@まさかの展開

 ソートラン行のバスが乗り込むフェリーは、航行距離が長いためかかなり立派な船体である(クルーズ船のよう)。対してこちらが乗るべきフェリーは、観光要素ゼロのボロ船である(作業船のよう)。それでも、船に乗れるのはありがたい。
 というのも、ここまでフロムやオンダルスネスへ行ってフィヨルドの景色を見るたびに、やはり1回くらいは船での観光を入れるべきだったとの若干の後悔があったのである。これから乗船するのは生活路線であるが、しかしフィヨルドを航行できることには変わりない。

@観光気分で(バス乗車時に追加徴収された料金は、おそらく船の料金であろう)

 対岸に渡ってからは、やはり長閑な景色の中を走り続け、終点のナルヴィクには13時30分に到着した。雨は上がり、すっかり晴れ渡っている
 事前に名前を知っていたオスロやトロンハイムですら意外に小さな規模であったので、北の外れにあるナルヴィクは寒村かと思っていたが、予想外に大きな町であった。大きなスーパーもいくつかあり、物の入手には困らなさそうである。
 バスターミナルから歩いて15分くらいのところにある予約済みのホテル(1,150クローネもするが、この町では最安値)に荷を置き、まずはナルヴィク駅へと向かった。

@駅

 駅員などはいないが、自動券売機でネットで決済した切符を発券し、ホームに展示されている小さなSLを見たりした。
 それからは、市内を徒歩で少しだけ観光した。「予想外に大きな町」と書いたが、目抜き通りを逸れると急に人気が少なくなり、長閑な雰囲気である。この町らしいのが、時々出入りする鉱石用の貨車である(ナルヴィクは、スウェーデンのキルナ鉱山の鉄鉱石の搬出港として栄えた町である)。
 スーパーで食材やビールを買い込み、19時過ぎには夕食を始めた。この町は北極圏内にあるため、今の季節は白夜である。しかしそれを確かめるためには、一晩中起きていなければならない。
 そこまでする気はないが、寝る際に携帯の目覚ましを現地時間の24時に合わせておいた。その時刻に目を覚ましてみると、雲が厚くなってしまったが、昼間とほとんど変わらない景色がホテルの窓から見渡すことができた。

@日は沈みません

 

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