【petit-tetu】なんとなく、飯田線

■はじめに
 言わずもがなであるが、お盆と夏休みが重なる8月は切符も宿も価格が高く、またどこへ行っても混雑しているため、私にとっての旅シーズンではないと言える。
 しかしそうは言っても、家に閉じこもっているのもつまらないし、行きつけの大学図書館は夏休みで閉館中であるし…ということで、いつもの悪い病気がまたぶり返してきた。
 お盆も過ぎ、週の中頃に週末についてあれこれ考えたところ、やはりどうしても旅へ行きたくなった。しかしあれこれ検索したが、当然、何もかもが高値である(北陸などへ行くことも検討したが、あえなく撃沈)。
 そこで、青春18きっぷ(2回分だけ)をチケットショップで買い、飯田線に乗ることにしてみた。
 飯田線自体は、これまで何回か乗ったことがある。感想を一言で表現すれば「景色は良いが、修行のようで面白味は少なかった」であるが、恐らくこの理由は、通しで乗ってしまったためであると思われる(飯田線は旧私鉄を国鉄が買収したものであり、駅の間隔が極端に短いのである)。今回は、適度に途中下車を含め、そして鐡ネタも紹介しつつ歩みを進めていくこととした。
 鐡ネタに関しては、マニアの人から見れば「そんなの当然」というものばかりである。しかし、普通の旅行者にとって「そういうものがあるのか」と思ってもらえれば、至極幸いである。

@小和田駅にて

■2015.8.22
 定期券で新橋まで行き、青春18きっぷに捺印してもらってJRで新宿へ。これから乗るのは臨時列車の「ホリデー快速ビューやまなし」号であるが、お盆やゴールデンウィークの真っただ中以外であれば、ちょっと前にホームに行けば充分である(実際、並ばなくても充分に自由席に座れた)。
 この列車は、その名(ビュー)が示す通り2階建て車両である。眺めの良い2階席の方が人気があるが、「荷物を置く場所が少ない」「頭がぶつかりそう」「窓が湾曲している」などの難点もあるので、個人的には車両の両端にある1階席の方が良いと思われるため、今日はそちらに陣取った。

@これで移動

 揺られること3時間弱、小淵沢に到着した。
 小淵沢といえば、駅弁「元気甲斐」が有名である。入れ替わりの激しい駅弁界では珍しく、なんと今年で30周年を迎えるという。紀行作家の宮脇俊三氏も、初期の作品でこの駅弁の名を出して褒めていたくらいである。
 しかし、実はもう一つ密かに有名なのが、「山賊そば(うどん)」なのである。グルメ系サイトではいくつか紹介されているが、とてつもなく大きな山賊焼(鶏のから揚げ)が乗っている代物である。
 急いで改札を出て立ち食い蕎麦屋に行ってみると、もうすでに数人並んでいた。しばし並び、山賊そばをゲット。

@でかい

 そばを啜りつつ鶏肉を齧っている間に、蕎麦屋の行列はあっという間に20人くらいに膨れ上がっていった。
 完食後は駅前をぶらつき、その後は駅の売店で駅弁「元気甲斐」を夜用に買い求める(なんだか地元のテレビが取材をしており、買っている場面を少しだけ撮られてしまったかもしれない)。1,500円という値段にこれまでは二の足を踏んでおり、実は初めて買った。
 12時40分の列車で岡谷へ向かい、駅前の地場産品屋でプチトマトを買い、飯田行の列車に乗り込んだ。勝手な決めつけだが、「飯田線らしくない」新型車両である。13時35分に出発。

@まぁ、新しい方が気分は良いですが

 辰野から先は飯田線となり、JR東海になるため乗務員が入れ替わった。その後、たったの14分後の伊那松島駅で、また運転手が交代した。確かにここには車両センターがあるが、飯田線は駅の間隔だけでなく乗務員の交代間隔も短いようである。
 「はじめに」で途中下車をすると書いたが、飯田線の北東側半分以上(天竜峡まで)は、民家などの比較的平凡な景色が続く(見どころが少ない)ため、しばらく乗り続けることにしている。

@少しだけ長閑な景色もある(田切付近)

 2時間ほど乗り続け、元善光寺で下車。ここから歩いて7分程度のところに寺社があるため、そこへ行ってお参りをし、納経帳に御朱印をしてもらった。
 元善光寺駅に歩いて戻り、数駅だけ乗車して飯田へ。駅前スーパーで「つまみ」と酒を買い揃える。
 同駅16時47分発の列車に乗り込む。3個目の駅は「下山村」であるが、この駅に関連しては「下山ダッシュ」というマイナーな用語が存在する(詳細な意味については、各自ネットで調べてください)。

@駅自体は地味

 要するに、飯田線のこの部分は大きく迂回しているため、この駅で下車して徒歩(急ぐ必要があるためダッシュをする)で北へ向かい、伊那上郷駅で先ほど下車した同じ列車に乗り込む、というものである。
 「○○ダッシュ」というのは世の中にはたくさんあるらしく、最も有名なのは北海道の「厚別ダッシュ」であるが、○○ダッシュというのは基本的に「他の路線」や「他の列車」に乗り継ぐための秘策であり、よって同じ列車に乗り継ぐ下山ダッシュはこれらの仲間には入らないという。
 そういえば、先ほど名を出した宮脇俊三氏は、日田彦山線の香春駅で下車して添田線に乗り換え、添田駅に先回りして先ほど下車した同じ日田彦山の列車に乗り継ぐ、ということを実行していたらしい。敢えて言うなれば、「宮脇ダッシュ」ということであろうか(と書こうと思ったが、良く考えたら氏はダッシュはしていない)。
 という、どうでもいいことを考えているうちに到着した時又で下車。

@何もない駅

 飯田駅近くの激安ホテルでも良かったのだが、調べているうちに時又から徒歩10分程度のところに素泊まりで6,500円程度の温泉宿があったため、こちらにした次第である。やはり、温泉宿に泊まった方が「旅に来た」という感じがする。
 熱い風呂に浸かり、晩餐へ。今日は「元気甲斐」「岡谷で買ったプチトマト」「飯田のスーパーで買った鯉の旨煮」という、信州スペシャルである。

@ザ・海なし県

■2015.8.23
 時又発6時41分の列車で天竜峡へ。ここまでは平凡であったが、ここから先がこの路線にとって白眉といえる区間である。天竜峡を出発すると、雰囲気が一変する。
 途中下車の候補はあれこれ考えたが、まずは7時13分に到着した田本で下車した。この駅は、「秘境駅」として最近有名になってきている駅である。前後をトンネルで挟まれており、最寄に中学校があるものの登山道を30分もかけて歩かなければならないという(実用性はゼロ)。

@よくこんな場所に駅を

 ウィキペディアによると1日の平均利用者数は1〜2人ということで、もう今日は私でそれを満たしてしまったことになる。
 吊り橋があるらしいのでそこまで行ってみたいが、折り返しの列車が7時20分であるため断念した(これを逃すと、この先の旅程が大変なことになってしまう)。
 件の列車に乗り、天竜峡方面へ戻る。同じく秘境駅として有名な金野駅(飯田線で最も乗降者数が少ない)に行くことも考えたが、折り返す適当な列車がないため、これまた断念。よって、唐笠で下車することにしている。
 唐笠着は7時30分。駅のすぐ近くに川下りの店舗があったりするので多少は開けているが、都会から比べればここでも充分に秘境である。

@橋の上から撮影

 同駅を7時56分に出発した列車で、再度豊橋方面へ南下する。目指すは、やはり秘境駅として名高い小和田(こわだ)駅である。この駅は、小和田雅子さんがご成婚された際にも、急に有名になった駅でもある。
 飯田線は単線であるため、途中駅で対向列車と行き違うために、数分間停車することがある。比較的大きな駅である平岡で8分ほどの停車時間があったため駅構内へ行ってみると、売店があり、地物の野菜などが売っていた。天竜村名産という巨大なナス(ていざナス)があったので、よくわからないがとりあえず1本買ってみた。

@巨大

 小和田着は、定刻の8時43分であった。3つの県境にあるということで、それを説明した案内板などもある。
(この駅については訪問記がネット上にたくさんあるので、詳細を知りたい人はそれらをご覧ください)

@県境

 次の列車まで1時間半近くあるため、とりあえず川沿いの遊歩道を歩いてみた。約20分ほど歩いたところでやっと民家(ほぼ廃屋)があり、そこから先は「橋がない」ということで道も廃れており、歩けそうにない状態であった。

@ここまで

 駅へ戻り、しばらくぼんやりとする。その後にやって来た、10時12分発の中部天竜行の列車に乗り込んだ。
 天竜川沿いに走り続け、長大なトンネルを抜けると水窪(みさくぼ)である。田舎の集落であるが、今日これまで見てきた集落と比較すると大都会のようである。
 10時40分に到着した佐久間で下車。終点である次の中部天竜まで乗っても1時間弱の待ち時間が出来てしまうため、意味もなく手前の駅で降りて歩くことにしたのである。ある意味、駅間が短い飯田線ならではの手法である。
 炎天下の中、国道に沿って歩き続けた。

@道端にはこういうものが

 市街地にある吊り橋を渡ったりして、中部天竜駅に到着した。この駅の鐡ネタといえば「佐久間レールパーク」という鉄道博物館だったのであるが、平成21年に閉鎖されてしまい、展示内容の多くは平成23年に開業した名古屋の「リニア・鉄道館」に移転されてしまっている。
 11時36分の列車で、豊橋へ向かう。途中下車候補としては豊川(豊川稲荷がある)などがあるが、降りてしまうと帰りが遅くなってしまうため、今日は割愛である。
 途中から沿線の家が増え始め、複線となって13時23分に豊橋に到着した。もう昼は過ぎてしまっているが、三河と言えばウナギが名産である。ということで、最後はベタに。

@この辺りといえば

 さて、後は東海道線で戻るだけである。沿線の景色はビルだらけであるし、何回も乗り換えなければならないし、しかも通勤列車のようなロングシートの車両も多いため、ここからは今日も「修行」しなければならない。

 

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