上海南発成都行「K351特快」

■はじめに
 中国内には烏魯木斉行やラサ行などの有名列車がいくつかあるが、今回乗車するK351特快は、それらと比較して正直なところかなり地味な列車である。中国の鉄道の乗車記をネットに掲載している人は多くいるが、このK351に関するものは1つしか見つけられなかった。
 かくいう私も、この列車が目的で中国に来たわけではない。「風が吹けば桶屋が」式の根拠を述べると、
 ・マイル特典で中国行を考えた
 ・上海や北京往復では、マイルがもったいない(必要マイル数の区分は大まかなため)
 ・往路を上海にして、復路はどこからが可能かを調べたら、成都であった(とりあえず飛行機だけ予約)
 ・上海から成都へ行く列車を調べると、5種類ほどあった
 ・昨年末に烏魯木斉に行ったが、その旅程となるべく重ならないものにした
 ・そうしたら、この列車だけが残った
 という塩梅である。

 斯様に地味な存在であるから、列車内にはおそらく外国人旅行客などは皆無であろう。私は2か月ほど前から中国ををやり始めているが、幼児以下(言えるのは簡単な挨拶と数字程度)である。不安は残るが、そういう旅行も思い出になるのかもしれない。

【旅程】
1日目:羽田→上海虹橋。江湾站跡を見学。夕刻、K351乗車(車中泊)
2日目:ひたすら乗車(車中泊)
3日目:夜明け前に成都到着。パンダ繁育研究基地等を観光。
4日目:成都→成田


@襄陽東にて


■2012.11.23
 もうすでに何度目かの利用となる羽田国際線ターミナルから飛び立ち、上海虹橋に着陸した。東京と同じく残念ながら雨模様であったが、鐡旅には天候はあまり関係ない。
 まずは地下鉄を乗り継ぎ、上海南駅へと向かう。その目的は、旅行会社に手配してもらった切符を受け取るためである。中国の鉄道利用は3年連続であるが、前々回と前回は以下の通りであった。
・現地旅行社手配してもらい、虹橋空港で受け取り(手数料・配達料がかかり、値段が高いというイメージ)
・中国系旅行社の日本支店に手配してもらい、中国内で受け取り(待ち合わせなどが面倒)
 今回は、前々回と同じ現地旅行社であるが、空港などで受け取る必要はなく、駅に直接行って予約番号等の記された紙とパスポートを窓口に示すだけである。若干の面倒さは残るが、配達料がかからないのがよい。

@無事にゲット(パスポートナンバーを地味に隠している)

 あと数年もすれば、インターネットで予約・決済ができるようになるかもしれない。そうなれば、もっと中国に来やすくなるなるだろう。
 さて、列車の出発までは4時間ほどある。上海の「鐡ネタ」である上海鉄路博物館はすでに見学したことがあるので、今回は新たな鐡スポットとして江湾駅(淞滬鉄路江湾站)を訪問することにしている。ここは、中国最初の鉄道駅跡として、約1年前(2011年5月)に鉄道公園として整備されたものであるという。
 地下鉄に乗り、件の公園がある大柏樹駅へと向かう。約50分ほどの時間がかかるが、上海地下鉄の3号線は「地下を走らない地下鉄」(?)なので、風景を楽しむことができる。

@なぜ地下鉄に分類されているのかは不明(車両は4号線のもの)

 ほどなくして、大柏樹に到着。公園は歩いてすぐのところにあり、見逃すことはない。
 公園内にあるのはSL1両と客車2両で、見物客は皆無であった。そもそも、見物するためのものではなくて、町の公園として整備されたような感じである。わざわざ訪問して写真を撮ったりするのは、物好きな日本人くらいなのであろう。

@SLの製造年は1988年(かなり新しい)

 ゆっくり見学しても、ものの10分もあれば終了である。駅へと戻り、鶏肉を直火で焼いていた屋台で夜用のツマミを買う(1本6元×3本)。まっすぐ上海南へ行っても時間が余るため、途中の宝山路(上記「鉄路博物館」の最寄駅)で下車して駅近くの商店街を散策し、それから上海南へと戻ってきた。

@最近の中国の駅にありがちな、とにかく大きな駅

 売店で缶ビールを3本買い、出発の約20分前に改札が始まったのでホームへ降りて行った。赤を基調にした各車両の出入り口には、すでに車掌が待ち構えている。
 編成は、17〜12号車が硬臥(三段式寝台)、11号車のみが軟臥(二段寝台)、10号車は食堂車、9〜1号車(途中5〜7号車欠番)が硬座の、計14両であった。
 地味な列車らしく(出稼ぎ出身者の地域を通る列車ということらしい)、硬座主体の編成である。

@上海南駅ホームにて

 先頭まで行って編成を確認した後、私の11号車へと入っていった。内装はかなり新しく、各個室のドアは木目調であり、室内の真新しいシーツ類と共に「中国らしくない」感じである。足元にはコンセントもあったが、残念ながら電気は通っていなかった。
 コンパートメントの先客は、私の上の段に男性客が1人いるだけであった。

@これから2泊の塒(ねぐら)

 13時32分、気のせいではなく定刻より2分早く出発した。日本なら問題ありだが、中国では列車ごとの改札をホームに入る前にやっているから、大した問題ではないのであろう。
 軟臥の車内は私を入れて7人程度で、乗車率は25%程度である。しばらくすると、車掌が夕食の注文を取りに来た(ということが理解できるまで3分ほどかかってしまったが)。車掌は中国の車掌にしてはめずらしく、若くて笑顔も愛嬌のある子である。もう少し中国語を真面目に勉強しておけばよかったと、少しく後悔したが後の祭りである。
 流れゆく灯火をおかずに、大柏樹で買った鶏肉でビールを飲み進める。

@これがまた、アルコール分の低いビールだった…

 久々の夜行寝台を楽しみつつ(国内ではほとんどできなくなってしまったため)、肉を齧りつつ酒を呑み続ける。しばらくすると、注文しておいた弁当がやってきた。25元(昨年の中国旅行では、新幹線内で45元で在来線で25元、一昨年は在来線で15元であったから、それらの中間)の割には、なかなかよくできた弁当であり、味も悪くなかった。辛いおかずが多いのは、成都鉄路局(四川料理の本場)だからであろうか(と、このときは考えたが、2日後に成都で本場の四川料理を食べ、この程度の辛さは物の数に入らないことを知った)。

@ピンボケですが(おかずも5品あり)

 18時29分、嘉興に到着した。ホーム上では、これから乗る客が右往左往している(これはこの駅に限らず、中国ではホームのどの位置に何号車が停まるのかが不明であるため、たいてい停車後にホーム上が修羅場になるのである)。私の向かいには、若い母親と3歳くらいの女の子がやってきた。上海出発時は閑散としていた軟臥車内も、いつの間にかかなりの賑わいになっている。
 弁当を食べている姿を彼女たちに見られながら、終了後ほどなくして就寝。

■2011.11.24
 ふと目が覚めると、どこかの駅で止まっているのに気付く。ホーム上の時計は3時49分を指している。おそらく南昌であろう。
 再び寝て、目が覚めると6時過ぎであった。まだ薄暗かったが、しばらくすると外も明るくなってきた。詳細は不明であるが、水の多い間際を走っていく。

@水多し

 こちらの列車が快走しているのには理由があり、至る所で路盤変更の工事をしたようである。あちらこちらで、廃線となった旧い路盤が見え隠れしている。
 辺りは、ひたすら「農村地帯」という感じである。昨年乗車した烏魯木斉行のように「目が覚めたら広大な砂漠地帯」のような派手さはないが、地味なりに面白みはある。
 ほどなくすると、採鉱場のようなものが多くなり、それ用の貨車も多くなってきた。通過する駅の駅名標には「鉄山」と書いてあり、「まんま」である。

@鉄山駅(流し撮り失敗)

 武昌には、定刻より10分遅れの8時44分に到着した。真新しい巨大なホーム上はがらんとしており、売り子の姿もない(中国らしい乱雑な雰囲気を期待していたのだが)。向かいにはCRH(和諧号)まで入線してくるし、ますます「らしくない」感じである。
 もともと12分の停車時間があったので、それを削って遅れを取り戻すのかと思っていたのだが、結局32分遅れの9時18分に出発した。

@こんなの中国の地方駅じゃない!(偏見)

 再び田園地帯を走り抜け、云梦には定刻から2分遅れの10時20分に到着した。わずか98キロしか走っていないのに、30分も遅れを挽回しているのである。要するに、元の時刻設定自体にかなり余裕があるのだろう(客車自体は時速120キロまで出せる代物であるので、遅れを取り戻すこと自体は無理ではない)。
 ここでも美味しそうなものを売っている売り子はおらず、仕方なく保線作業を眺めて時間を潰した。

@何の作業かは知りません

 10時28分に出発し、またまた田園風景の中を走り続ける。上海到着後からずっと天気が良くなかったが、ここで少しだけ明るくなってきた(結局、翌日まで通して明るくなったのはこの時だけであった)。

@つかのまの晴れ間(「快晴」までには至らず)

 この列車が一番長く停車するのは襄陽東で、そこで43分間停まる予定である。結局襄陽東の到着は、15分早着の12時46分であった。というわけで、ほぼ1時間の停車時間ができた。
 しかし、ホーム上には売り子の手押し車が数台あるが、いずれも飲み物や乾き物(真空パックの惣菜含む)や果物しか売っていない。中国の駅売りといえば、惣菜や饅頭などを出来立てで売ってくれるものが多く、昨年の烏魯木斉行の際はあれこれ買ったのであるが、今回はまったくもって何も売っていない。路線が悪いのか、それとも時代が変わったのか。もしかしたら、地域の違いのせいかもしれない。

@何もなし(寒いので乗客等も早々に車内に退散)

 長距離列車の長時間停車といえば、楽しみはホームでの買い物などである(シベリア鉄道然り)。しかし、何もないのでは仕様がない。仕方なくビールだけ買い、あとは車内に戻ってこの旅行記の書き出しを作成したりして時間を潰した。
 定刻より1分遅れの13時45分、襄陽東を出発した。しばらくは徐行をするが、何が何線でどれが本線なのかまったくわからないくらいに、たくさんの鉄道と交差していく。それだけ鉄道の要所であり、路線も複雑なのであろう(帰ってから調べようと思う)。

@交差する列車(どこ行かは判別できず)

 15時07分、谷城に到着した(遅れは18分に増えている)。山間の寂しい駅であり、やはり物売りの姿はない。遅れは取り戻さず、それどころか貨物列車に2本も抜かれる(快特らしくないが、中国の鉄道では貨物が重要なのである)。結局15時30分に出発した。
 かなり長いトンネルを走り抜け、次の停車駅である武当山には16時28分に到着した。すでにこの駅の出発時間を20分以上も過ぎているが、向かいのホームには15時25分に出ているはずの青島発成都行が停車したままである。あちらにくらべれば、こちらの遅れはまだ可愛いものである。

@仲良く並んで

 たいていの旅行では遅れることは好ましくないが、K351の成都着は4時31分であるので、今回の場合は小一時間程度遅れてくれた方がありがたい。
 17時04分、57分の遅れで武当山を出発した。こちらが出発すると同時に、向かいのホーム(青島からの列車が停まっていたところ)にはさらに別の成都行が滑り込んで来ていた。遅れているとはいえ、かなりの分刻みのダイヤのようである。
 次の十堰では、出発予定時刻は16時35分だったのであるが、すでにホーム上の電光掲示の出発時刻が17時29分に変更されていた(大雑把な中国の鉄道であるが、妙なところだけ律儀?)。列車は、その妙な「定刻」通りに出発していった。

@停車中にこれを貼るのは車掌の仕事(妙なところだけ律儀)

 ちなみに、十堰のホームの片隅に1軒だけ湯気を揚げている売り子の車があったので、惣菜系が全滅したわけではいないようである。
 車掌が弁当の予約伺いに来ないな、と思っていると、今晩はワゴンで売りにやってきた。値段は昨日より安くなって20元である。安くなった分、おかずは少ないし内容もランクが下がった気もするが、味自体は悪くはない。
 註:私の意見は、値段を勘案したものです。水分の少ない中国米、油分の多い中国惣菜が苦手な人にとっては、参考になりませんのであしからず。

@今日の夕食は値段を聞かずに買える!

 日は沈み、灯火だけとなった景色を眺めつつ夕食を頂く。白河東を出発したのは18時22分で、遅れはたったの23分に回復してしまって(?)いる。この分だと、明日の朝は定刻の到着かもしれない。

■2012.11.25
 朝の3時50分頃、例の愛嬌のある車掌が起こしに来た(車掌に預けていた切符と、代わりに渡されていた寝台票を交換するため)。どの辺りを走っているのかは不明であるが、この時刻に起こされたということはほぼ定刻に走っているということであろう。
 予想通り、成都到着は定刻からたった7分遅れの4時38分であった。同室の若いお母さんに別れを告げ、地下道を歩いて駅前へ出て行く。初めての土地で早朝に降ろされることを不安に思ってたが、駅前は客引きなどがたくさんいて、開店している食堂等もたくさんあり賑やかであった。とても早朝とは思えないその中、私は今日の日帰り旅程の切符を買うために駅ビルへと向かった。

@朝から人多し

【おまけ】
 成都到着後は、人並みに観光である。まずはやはり、パンダは外せないであろう。
 その前に、成都駅で午後の切符(青城山までの往復)を手配しておく。早朝のため窓口は2つしか開いておらず、かなりの行列になっている。割り込もうとする人民、前の方に並んでいる人に代理で買わせようとする人民、それらに業を煮やして罵倒する人民、警官に注意され揉み合いになって公安詰所に連れて行かれる人民等々、見ていて飽きはない。

@早朝の窓口

 それらを手配してから、パンダ繁育研究センターへ向かう。まだ朝早いため青龍場バスターミナルまで歩いて行こうとしたが、昭覚寺バスターミナルに着いてしまった。詳細な地図を持っていなかったので、諦めてそこからはタクシーに乗ってしまった。
 センターには開園直後の8時過ぎに到着。パンダは午前中の食事中が最もよく動くということで、子どもパンダのいるゾーンで30分ほど「出待ち」をし、活発に食事をする8頭ものパンダを写真や動画に収めることができた。

@パンダ多過ぎ

 パンダを堪能してからは成都駅へ戻り、駅近くの食堂で名物でもある担担麺を頂く。私は辛い物が得意なので問題ないと思っていたが、山椒の辛さは独特のもので、「最後まで食べられないかも」と狼狽えるほどであった(無理して完食)。

@辛い…

 午後は、2010年5月に開通した青城山までの中国新幹線(CRH:和諧号)乗車である。CRHは何度か乗車済みであるが、こんな内陸の支線までに進出してくるとは、時代も時代である。
 指定された車両は、一番端の8号車であった。両端の車両だけは座席が2×3ではなく2×2であるが、軟座扱いではない。お得感があるが、私の座席は机を挟んで進行方向と反対向きであった。

@両端の車両は座席が良い(運転室丸見え。もちろん運転中は閉まっている)

 曇っていた空模様は、いつの間にか酷い雨模様になっている。青城山は都江堰と共に世界遺産に指定されており、晴れていれば散策でもしてみるつもりであったが、この濃い霧の中では面白みもなさそうである。結局、予定を早めて成都へ戻ることにしてしまった。

@巨大だが、周りはなにもない青城山駅ホームにて

 さて、明日の朝一番の飛行機で帰らなければならないため、今晩が成都を楽しむ最後である。麻婆豆腐で有名な某店へ行き、せっかくだからと麻婆豆腐以外にも他に辛い惣菜も注文してみた。その辛さは尋常ではなく、ビールで流し込むにも限度があったが、土産話を作るつもりで完食することにした。

@格闘したが、やはり辛い…

 

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