【非鐡の旅B】セスナで行く薩摩硫黄島

■はじめに
 今回の目的は飛行機であり、9月に搭乗したアイランダーよりもさらに小型のセスナである。特異な点としては、「定期便のない飛行場へ行く」ということと、「私にしては珍しく“パック旅行”を利用する」というところである。
 目的地は「薩摩硫黄島」であり、そこにある日本初の「村営飛行場」である。定期便はなく、個人やチャーター機が離着陸する程度であるが、JAL系列のパック旅行(隠してもすぐわかってしまうので書いてしまうが、“旬感旅行”)で、旅行定員3人(そして最少催行人数も3人)でセスナをチャーターする企画があり、今年の夏に申し込んでおいたのである。
 旬感旅行はこれまでにも奇特な企画を多く立てており、私はこれまでは物珍しさからその企画内容を見たり参加者の反応をネットで読んだりする程度であったが、今回のセスナに関しては個人での手配が難しい(不可能ではないが、かなり高価になる)ため、恐らくは私にとって人生初と思われる「パック旅行への参加」を決意したのである。

 参加決定後、この企画の過去の参加者の感想などがインターネット上にないかと思って探していたのだが、見つけられなかった。定員が3人しかいない(=ネットに感想などをばら撒くような輩も少ない)ためと思っていたのだが、ツアー中にパイロットの方に聞いたところ、天候不順や参加者の不揃い(3人全員が揃わないと決行されない)などもあり、きちんと遂行されたのは今回で2回目ということであった。無事開催されたことは、かなり運が良かったと言えよう。

@薩摩硫黄島空港にて

■2011.12.17
 パックで指定されている鹿児島への便は、羽田発8時05分である。定刻より少し遅れて出発したが、向かい風が強いものの天気は良く、富士山や室戸岬をきれいに見て取ることができた。
 鹿児島到着は10時15分。ツアーの待ち合わせ時間は12時30分であるため、幾許かの時間がある。そこで、事前に調べておいた通りに、10時25分発の「妙見温泉バス」(霧島市による運行)で嘉例川駅へと行った。鉄道好きには今更説明の必要もない有名な駅であり、私も数年前に訪問したことがあるが、いざ着いてみると真新しい大駐車場などが整備されていて少しく驚かされた。
 今日は土曜日、つまりあの有名駅弁“百年の旅物語かれい川”の唯一の駅舎での販売日である。待合室で店を開いていたおじさんから一つ贖い、近くの公園で頂いた。私にとっては2度目の体験であるが、肉も魚も見当たらない、今時には珍しいものである。

@王道の味

 嘉例川駅付近で、上りと下り各1本ずつの列車(1両だから正確には“列”ではないが)を写真に収め、件のバスで鹿児島空港へと戻った。

@小春日和(地元の人は「今日は寒い」と言っていたが)

 12時30分に指定の待ち合わせ場所へと行き、参加者3人が無事集まったところで、新日本航空の社員の方が運転する車で空港にほど近い同社の社屋へと案内された。それから応接場でパイロットの方から運行経路や天候状況の説明を受け、保険の書類に署名等をして、あとは搭乗を待つばかりである。

@航路の案内を受ける

 13時過ぎに、搭乗のために移動を始める。社屋の目の前が格納庫になっており、小型機に合間を歩いて抜けて行った。セスナはすでに格納庫前で待機している。ちなみに座席は参加者でくじ引きをしており、私は往路は後方席、そして復路は1番クジを引き当てたためパイロット横の席である。よって今日は、「明日の予行練習」程度の心構えである。

@格納庫には別の飛行機も(滑走路の長さの関係で、この機体は薩摩硫黄島には降りられない)

 想像していたよりもかなり狭い機体内に4人が収まり、ゆっくりと滑走路へと向かって動き出した。仕事や旅行で何度となく利用したことのある鹿児島空港であるが、目線がいつもと異なっているため新鮮でもある。

@普段は使えないデジカメも、今日は使い放題(セスナで使用されている機器はほぼアナログなので、離着陸時も問題ないとのこと)

 右手(南側)からやってきた旅客機の着陸を見届け、こちらの離陸となる。エンジンが唸って加速が付いたなと思ったそのすぐ後にはもう浮いており、大きな旅客ターミナルまで至らないうちに空の上に舞い上がってしまった。
 離陸後は大きく左に旋回し、鹿児島市内方面へと向かって行く。天気は良いが、時折「ガクッ」と揺れる。その揺れは大型機のものとは性質を異にしており、うまく言葉では説明できないが、センシティブな揺れがあり続けるため内心ひやっとしてしまう。
 鹿児島市内付近は何度も訪れたことがあるため、見たことのある港、ビル、駅、病院、役所などが、いつもとは違う角度(ほぼ真上)から見て取ることができ、かなり新鮮であった。左手には桜島が大きくそびえ続け、そのうち前方の遠くには、開聞岳のとがった先が見え始めた。

@鹿児島市内(高度は少し高め。復路はもっと低かった)

 開聞岳の右手を経由して、機体は海上へと出た。出発前に航空会社の事務所で気象データを確認したのだが、その予報通りに天気は下り坂になり、雨粒も少し当たり始めた。しかしそれもつかの間であり、遠くでは局地的に大雨になっているのが手に取るようにわかるが、目的地である薩摩硫黄島方面はそれほど悪くもなさそうであった。雨を通り過ぎたため、後方の海上には虹も掛かっている。

@いざ海上へ

 搭乗前に「乗り物酔いが心配な場合は酔い止め薬を」と言われていたが、私の長い旅行経験では飛行機酔いはしたことがない(酔った経験は、日本海側でのフェリーと、ボートのような高速船(焼尻行など)だけである)ため、断っていた。しかし、慣れない揺れであるため、少しく気持ち悪くなってきてしまっている。明日(復路)は、場合によっては薬も必要かもしれない。
 大きな活火山である薩摩硫黄島に近づき、機体はぐるっと旋回して南側からアプローチをし始めた。滑走路は断崖絶壁の先にあり、その手前の海上には、ちょうど村営の「フェリーみしま」が黒島方面へと荒い波の中を進んでいる。風は強いままだが、それほど滑走路に打ち付けられるような振動もなく、セスナは無事着陸することができた。

@アプローチ(後方席から撮影)

 薩摩硫黄島空港は、駐車場のようなスポットと小さな待合室の建物があるだけのシンプルなものであった。スポットの片隅にセスナを停め、風で飛ばされない(?)ようにロープで地面などに括り付けておく。

@大風でひっくり返りませんように

 その後はパックに組み込まれている宿の車で送迎され、荷物を置いてからは島内の観光(俊寛の像から恋人岬、坂本温泉など)もしてもらえた。

@高台から港を見下ろす(海の色が茶色いのは鉄分のせい)

 観光の最後は、東温泉である。目の前が大海原であり、温度も適温である。宿の方とパイロットの方も含めて男5人、しばらく湯に浸かっていた。

@温泉!(今日は真ん中の湯船が適温)

 宿に戻ってからは、開発総合センターにある無料温泉で洗髪等を済ませ、その後は夕食である。あまり詳細を書くと個人情報になってしまうため著せないが、参加者の皆さんは様々な知識を有しており、パイロットの方も含めて、日本の旅のこと、世界の旅のこと、航空機のこと、その他移動手段(鉄道や船舶)のこと、お互いの職業上の専門知識など、多岐の分野にわたって話題は広がり、焼酎のグラスを繰り返し空けながらの夕食は2時間以上も続いた。

■2011.12.18
 早朝5時過ぎに目が覚める。しばらく無線インターネットで遊んでから、東温泉を目指して6時半頃に宿を出発した(昨夕に温泉に入った際に、この位置なら朝日が綺麗に見えそうだと直感したためである)。
 かなり暗く電灯など何一つない道の中を、足元を注意しながら歩き続けること約30分、温泉へとたどり着いた。取り急ぎ湯に浸かったが、7時を過ぎると朝日が出始めてきた。しかし温泉からは海上に突き出た岩が邪魔になってしまっていたため、朝日の写真は風呂から出て撮ることになった。若干雲は大目だが、晴れ模様で何よりである。

@朝日を拝む

 宿に戻って朝食を頂いた後は、町(といっても人口は100人程度であるから規模は知れている)を彷徨する。島名物の“野良クジャク”もたくさんいたが、写真を撮ろうとするとどうしても逃げられてしまう。ムキになって何匹も追いかけ、なんとかフレーム内に収めることができた。

@野良クジャク(飛ぶ奴もいる)

 それからは港へと戻り、「フェリーみしま」の入港と出航を見届け、町内の商店(品数は驚くほど少ない)で三島限定販売だという焼酎を購入し、宿へと戻った。

@次回は船で?

 送迎車で空港へと行き、さて、私個人としてはこの旅のメインとなる復路(操縦席横の席への搭乗)である。空港のスポットには別のセスナも停まっていて、宿の方によれば、飛行機が複数来ることは珍しいことであるという。

@機体の造りはかなり違う

 昼の12時になり、セスナは滑走路へと動き出した。私の目の前にも操縦桿があり、足元のペダルと同様にパイロット側の機器と連動している。すると、その場でペダルの操作方法を私に教えてくれて、私の足操作で機体を右へ左へと移動させてくれた。

@機器類一式

 滑走路の南端で言われるがままに右足を思いっきり踏み込んでUターンし、それからセスナはエンジンの回転数を上げて北へ向かって離陸をし始め、無事に飛び立った(もちろん、離陸に関する捜査はすべてパイロットの方)。機体は薩摩硫黄島をぐるっと一周回ってから、徐に鹿児島方面へと向きを変えた。先ほどに比べて雲が多くなってしまったが、風は昨日ほどは強くないため揺れもあまり酷くはない。

@さようなら薩摩硫黄島

 航路上では、パイロットの方が特別に様々なことをやってくれた(おそらくは何の問題もないことなのであろうが、航空法上、何がどこまで許されるのか私は知らないので、あえて詳細は書かないことにする)。とにかく、海面に○○○や、大きく左右に○○○などである。一番驚いたのは、長い時間にわたって○○を○○続けたことであり、かなり緊張してしまった(こんな書き方では何をどうしたのかさっぱりわからないだろうが)。とにかく、旅行費以上の良い経験をさせていただいたことは確実である。

@海面近くから竹島を見遣る

 復路では開聞岳の東側を通り、池田湖の上空、鹿児島市内を経由し、桜島を右手にして飛び続けた。鹿児島中央駅の上を通り過ぎると、線路上には黒っぽい2両編成(明らかに、特急「はやとの風」)が走っているのが見えた。
 
@上から見る鹿児島中央駅                          @桜島も

 陸上になってからは管制塔と通信を繰り返して、混雑している旅客機たちの合間を縫って鹿児島空港に降り立った。着陸するとすぐに速度は低下し、滑走路の4分の1程度しか使わずに曲がってしまった。

@鹿児島空港アプローチ時

 無事到着後、少し時間があったため航空会社の方が整備中のアイランダーを見せてくれた。この機体は英国の警察で使用されていたものということで、旅客用に改造整備後、佐渡航路で使用されているアイランダーと交代されるということであった(現在の佐渡航路使用機体は別会社のリースであることと、冬季対策が不十分であるためらしい)。元は特殊な使用をされていたということで、私がこれまでに乗ったことのあるアイランダーにはない特徴(最後列付近の左側に、足元までの大きな窓と監視用の膨らんだ窓)がある。これは、そのうちまた乗りに行かなければならないだろう。

@もうすぐデビュー

 ツアー指定の飛行機は19時25分発と遅めである。そういうわけで、路線バスで硫黄谷温泉まで行き霧島ホテルの大浴場にゆっくり浸かり、丸尾の温泉街を適当に散策してからバスで空港へと戻った。

 

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