王室列車の旅

■はじめに
 今回は、初訪問となるカンボジアである。比較的アクセスが容易な東南アジア各国の中でこれだけ訪問が後回しになったのには理由があり、鉄道がなかった(正しくは長期間中断されていた)からである。しかし、昨年(平成28年)の4月に「週末だけ復活した」というニュースが舞い込んで来た(最初は期間限定で、その後定期便に変更)。プノンペンからカンボジア南西部の都市シアヌークビルまでの266キロについて、貨物列車はそれまでも存続していたのであるが、そこに旅客列車が復活したというのである。これは、行かねばならない。なお、タイトルはカンボジアの鉄道会社「Royal Railway」から来たものである。
 同年の9月にANAの直行便が出来たというのも、訪問しやすさに拍車を掛けたといえる。あれこれ情報を収集し、取り急ぎ8月の山の日を含む連休+夏季休暇を絡めて、飛行機だけを押さえておいた。お盆だというのに、他の時期と同じ値段だったからである。
 さて、一番の問題は鉄道の切符である。日本の代理店で取り扱っているところがあるかどうか探したが、皆無であった(そりゃそうだろう。10ドルもしない切符を扱ったところで、面倒なだけである)。続いて英語で検索をしたが、カンボジアの旅行社で扱っていそうなところはなかった。しかし、Baolau.comという旅行サイトで扱っていることが判明した。しかも、サイトには日本語表記もある。
 会社に関する説明を見てみると、ベトナムの会社であった。果たして本当に手配してくれるのかどうか不明であるが、手数料は1枚当たりたったの2ドルであるし、騙されても大した額ではないので往復をネットでカード決済してしまった。ちなみに、「ソフトな座席:6.98ドル(ロイヤル鉄道の公式サイトでは7ドル)」と「ソフトな座席Premium:8ドル」があり、差がわからないので、往路を7ドル、復路を8ドルにして買ってみた。メール返信はすぐにあり、翌日には添付ファイルで予約票も届いた。「出発前に駅に行って紙の切符と交換するように」とあるので、あとは駅に行ってみるだけである。

【旅程】
1日目:プノンペンへ移動(プノンペン泊)。
2日目:プノンペン市内観光、切符入手(プノンペン泊)。
3日目:鉄道でシアヌークビルへ移動(シアヌークビル泊)。
4日目:鉄道でプノンペンへ移動、夜便で成田へ(機内泊)。


@タケオ駅にて

■2017.8.10
 今日はプノンペンに移動するだけである(鉄道に乗るのは土日なので本来なら明日の移動でもいいのであるが、飛行機を決済した時点ではBaolauのサイトを知らなかったため、金曜日を「切符購入の日」にしていたのである)。
 ラウンジで酔いどれ、10時50分発の便の離陸も気づかずに3時間ほど熟睡。プノンペン到着は、定刻より少し早い15時前であった。
 アライバルビザを取る予定でいたが、出発時にうっかりして写真を持ってくるのを忘れてしまった。到着ロビーに撮影機もないので困ってしまったが、誘導していた職員に聞いたら「3ドルでいいよ」という。現金を渡し、その後は特に撮影もされずに無事にビザは発給された(3ドルはアンオフィシャルな手数料(おっさんの小遣い)でしょうか)。

@「上空からの撮影は禁止」のようですが、到着後はOK?

 さて、あとは市内への移動である。プノンペン市内では3系統の路線バスが開通し、その1本が空港の前を通っている。バス停の写真などを懇切丁寧に説明している個人サイトがいくつかあるので、それで下調べをしてある(タクシーで移動すると12〜15ドルもするのに、路線バスなら1,500リエル=約45セント=約50円)であるから、これを使わない手はない)。
 トゥクトゥクやタクシーの運転手からのお誘いを断り続け、空港前の道路にあるバス停へと向かった(建物を出てから3分程度)。20分に1本くらい来るらしいが、幸運にも私がバス停に着いた1分後にやってきた。「古いバス」という記述のサイトもあったが、やってきたのは中国製の新型バスである(すれ違うバスを確認したところ、全車新しくなったようである)。

@ラッキー

 両替はしていないので、車掌に1ドル札を渡して乗車した。
 少しだけ渋滞に嵌り、約30分でセントラルマーケット付近のバス停で下車。そこから歩いて5分程度のところにある安ホテルに投宿した。その後、トレンサップ川のほとりを散歩したりしてからコンビニ等で食材を揃え、アンコールビールで乾杯。

■2017.8.11
 ネットで切符を手配できてしまったため、今日は完全な自由時間である。最初は近場へのツアーも考えたが、1人参加ではどれも高額になってしまうため、徒歩観光をすることにした(トゥクトゥク等を利用しないのは、偶然の出会い(野良猫とか、変な看板とか)を逃さないためである)。
 ということで、王宮や虐殺博物館など、定番をぐるっと回った(さすがに日差しが厳しいので、大型スーパーやモールを見付ける度に中に入って、夜用の食材を買ったり早めの昼食を取ったりして涼んだ。

@劇暑

 12時前にホテルに戻り、あまりの暑さで疲労困憊となった体をアイスとジュースで冷やしてから1時間ほど昼寝。その後しばらくテレビを見てから、14時過ぎ頃にプノンペン駅へと向かった。目的は「切符の入手」と「駅近場の探索」である。
 バイクタクシーとトゥクトゥクの誘いを断りながら15分ほど歩いて駅に向かった。まずは、全体像の撮影である。

@定番から

 15時00分発の列車を待つ乗客がいるため、構内にもそれなりの乗客がいたが、窓口に並んでいる人はゼロであった。打ち出してきた予約票を窓口に出してみると、係員の女性は奥の方に行き、Baolauからの連絡らしき紙と切符2枚を留めてあるホチキスを外して、そして切符だけを私に渡してくれた。時間にして1分、知らない予約サイトであったので実はそれなりに心配していたが、まったく問題はなかった。
(ちなみに、出発前にロイヤル鉄道の公式サイトを見てみると、「Reservation」というメニューが増えていた。決済等ができるかどうかは不明であるが、今後は手配しやすくなるのかもしれない)

@無事ゲット

 その後は駅の敷地内を歩き、木製の古風な客車や貨物列車の撮影などをしたりした。さらに敷地の南側にSLが展示されているのでそちらに向かおうとすると、門番の女性が「そこ(引込線)は横切ってはダメ」というジェスチャーをしてくる。仕方ないので、塀の外をぐるっと回ってSL側に移動した(こちらの入口は別の店舗入口にもなっており、自由に入ることができる)。

@これも定番

 この時点で14時半、せっかくなので15時の列車の出発を見送ることにした。
 散策ネタは他にはもうないので、待合室(ベンチがあるだけ)にいるだけである。しかし、丁度良い暇つぶしがビデオ上映されていた。どうやらロイヤル鉄道のイメージビデオ(貨物中心)のようであり、空撮を用いたかなりお金をかけたような代物である。「こんなものを作る予算がどこに」と思ってしまうが、ぼんやりと眺めるのには丁度良い代物であった。

@意外と資金豊富?

 15時発の列車は、機関車を先頭に客車2両、荷物車1両、貨物(自動車用)1両の編成である。反対側のホームには客車5両の編成がいるので、明日の朝はこちらが運用に当たるのであろう。
 一番北側のホーム(使用されていない)の端まで移動し、件の列車の出発風景の動画と写真を撮影。ゆっくり、のんびりとした姿である。

@乗車は明日

 いったんホテルに戻り、チェーン店のチキンで一献。

■2017.8.12
 6時にチェックアウトしてから、まだ早いが駅へと向かった。6時15分頃に駅に着いたが、出発までまだ45分もあるというのに、待合室は数十人くらいで賑わっている。
 ホームにはすでに列車が入線しており、最後尾の貨車に自動車を載せる作業をしているところであった。

@作業中

 白人の観光客の姿もちらほらあるが、ほとんどは地元民である。しかしその地元民も列車の写真を撮っているので、彼らにとってもまだ珍しい存在なのであろう。
 6時40分くらいになって「乗ってもいい」というようなジェスチャーがあったので、切符を見せてホーム内へ入っていった。私に宛がわれたのは、最前部の車両である。

@自走できません(機関車連結前)

 乗り込んでみると、他の旅行記でもあったが残念なロングシートである(豪華な座席であるが、すべて通路を向いている)。切符には座席番号が書いてあるが、そもそも座席番号というものが存在していない。しかも、待合室にいた乗客の多くがこの車両に乗り込んできており、5両のうち1両だけあるクロスシートの車両はガラガラである。

@ここだけ混雑

 車掌が通りかかったので、「あちらの車両に変えていいか」と尋ねたらOKということだったので、すぐに引っ越した。やはり撮影するにはこの座席が最適であるし、他の客車は窓のすべてにスモークが貼ってあるのに対して、この車両だけはカーテンである(開けておけばきれいな景色が見える)ので、これも撮影に最適である。日差しの向き(南下する際に朝日が当たる)を考慮して、右側に陣取った。

@断然こちらが良い(出発時には3割くらい埋まった)

 良い位置を確保した後は、ホームに降りて出発を待った。6時50分頃に遠くに機関車の影が見えたので、「あれがこの先頭にくっつくのか」と思っていたら、そうではなくて貨物列車が到着したところであった。この鉄道にとって旅客はまだまだ「おまけ」であり、貨物(シアヌークビルからの石油輸送)の方が本業である。

@メイン的存在

 出発5分前になって機関車がやってきたので、それが先頭に付くのかと思ったら、どうやら違うようである。空の貨車を1両付けているし、入線してくる線路も隣りである。
 恐らく、最後尾に貨車を1両追加するのであろう。というのも、到着時に最後尾の貨車に自動車を載せている作業を見ていたのだが、まだ残されている車があったからである。現状のまま最後尾に追加することはできないので、隣りに貨車だけを入線させ、あとで本編成がそちらにバックで移動して連結するのであろう。

@その作業の様子

 だったら最初から貨車を2両にしておけばいいのにと思うが、実は昨日の15時発の列車はそうであった(貨車を2両用意し、実際は1両しか使用しなかったため1両を残して出発)。
 7時02分に汽笛が鳴り、しばらくしてまた鳴って05分に出発し、しばらく走行してから予想通りにバックをし始めた。状況を理解している人はまだしても、他の乗客にとっては???という感じであろう。
 追加の貨車を連結し、7時13分に改めて出発した。しばらくはゆっくりと走行し、スラム街の家屋すれすれに走行していく。

@貧しい

 路盤は、通常は生活道路として使用されているようである。というのも、スラム街にある店舗の入口がこちら(列車)側を向いているからである。崩れそうな家、ゴミの山、の連続である。
 ロイヤル鉄道の発表によれば、この路盤を活用して空港への連絡鉄道も計画しているようであるが、この路盤(と沿線の状況)では、すぐには無理であろう。少なくとも、フィリピンのように沿線のスラムを一掃するくらいの再開発が必要である(国レベルでの対応が必要)。
 時折カランカランと乾いた音がするが、どうやら住民(子ども?)が「置石」をしているようである。

@牛も踏切待ち

 7時41分、駅のようなところで停止した。その後ゆっくりと動き始めたが、どうやらここはタイ方面に(路盤だけ)繋がっている路線の分岐点のようである。タイとの国境越え鉄道は工事中のようであるが、それが完成して直通列車でも走るようになれば、また来たいものである(数年、いや十数年後?)。

@ここを通る機会はある?

 分岐点を過ぎるとスラム街とお別れし、当たりは長閑な田園風景となった。田んぼや、水の多いところではハスの栽培が目立つ(花も咲いている)。しばらくして、貨物ターミナルのような施設で貨物と行き違った(写真は復路にて)。
 車内では、係員が飲料や食料を売り歩いている。ジャケットのようなものを羽織っている人もいるが、ほぼ私服の人もいて見分けが難しい(3〜4個の飲料を持って歩いていると、人の分を持っているのか売り歩いているか不明である)。列車の速度は意外に早くなり、60キロくらいは出ていそうである。
 9時10分、最初の停車駅であるタケオに到着した。時刻表では8時40分発となっているが、この時刻表がまったくアテにならないのはネットで予習済みである。

@車外に出る

 いくつかの小さな店(小さい机1つのもの)が出ており、昼食やフルーツ、お菓子や飲料などが売られている。私も、鶏肉とライスを2ドルで買ってみた(相場的には1ドル〜1.5ドルくらいのような気もするが、言葉が通じないので言い値で購入)。
 たんなる途中駅かと思っていたがかなりの客も乗り込んできて、それまで1人で独占していたボックス席もすべておばさん(というかお婆さん)で埋まってしまった。
 9時27分、同駅を出発。狭いスペースになってしまったが他に場所もないので、膝上で食事を開始した。

@食べづらい(骨多し)

 それにしても、タケオから乗ってきたお婆さんの団体は強烈である。どの国でもほぼ同じではあるが、大声で盛り上がり続けている。
 そのうちの一部は、フランス人観光客とあれこれ話している(どうやらフランス語ができる模様)。カンボジアの高齢者ではフランス語ができる人がいるというのは、本当のようであった(かなり訛りがあるので、最初はフランス語ということに気付かなかったが)。
 右手に引込線があり、どうやら鉱山に繋がっているようであった。

@石油以外の貨物も運ぶ?

 右手には高くはないが山が見えるようになり、10時15分に停止して貨物列車とすれ違った。
 そのまま出発するのかと思いきや、しばらく前進してからスイッチバックをして隣りの路盤へと移った。このような場合、追い抜かれるか行き違うかのどちらかであるが、この路線で前者はあり得ないので後者である。かなり待つこと25分間、やっとシアヌークビル発の旅客列車が走り抜けていった(確かに、時刻的にはちょうど半分くらいのところである)。

@金曜の15時にプノンペンを出発した編成が戻っている

 退避場所を10時45分に出発し、長閑な景色をみているうちに少しウトウトとしていると、次の停車駅であるカンポットに11時40分に到着した。時刻表にある時刻とまったく同じなので一瞬驚いたが、よく考えたらそれは出発時間であるため遅延であることには違いなかった。
 ここでも長時間停車するため、ホームに降りて線路上をぶらついた。ここで下車する乗客も意外に多く(フランス人も下車した)、私の車内も少しだけ余裕ができた(強烈なお婆さん軍団は残ったままであるが)。

@先頭はホームから外れている

 先頭の機関車がいったん外されて、構内の後方に移動してなにやら作業をしている。わざわざこういうことをするのは、機関車の絶対数が少ないのであろう。
 その作業のせいか、結局40分も停車して12時20分に出発した。その間は何もすることがないが、車内ではまさかのWiFiが使用可能であるため、暇にはならない。
 同駅出発後は、田んぼから小高い木々の連続となった。時折、険しい山も見えたりする。
 どうでもいいが、車内のクーラーの調子が悪いようで、付いたり消えたりしている。そのうち切れっぱなしになり、まるでサウナのような状態になってしまった。

@汗だくになって沼を見る

 1回スコールが降り、14時少し前になると右手に大きな工場が見えてきた(街が近い証拠)。すると今度は左手に石油タンクがたくさん見えてきたので、シアヌークビルは近いはずである。
 右手に操車場のようなものも見えてきたため、こういう場合はすぐに終着となるのであるが、意外にここから先が長かった(市街地と石油施設は離れているようである)。
 しばらくすると、右手に海(湾)が見えてきた。もう終点は間近である。

@海

 スラム街が現れ、定刻から22分遅れの14時22分にシアヌークビルに到着した。
 今日は町の西側にあるビーチ付近の安宿に泊まることにしている(南方面にある有名なビーチは行くのが面倒だったため断念)。歩ける距離(2キロ程度)であるので、トゥクトゥクの誘いを断って歩き始めた。
 ホテルに直行しようと思っていたが、途中で海が見えたので立ち寄ることにした。なかなかの景色である。

@これで充分

 チェックインし、しばらく休んでから市街地にある市場などに行ったりした。
 さて、夕食である。ビールや小物は小さな店舗で買えるが、メインに悩むところである。道端で肉を網で焼いているが、値段等が不明である(商売っ気がないのか、覗き込んでも店員が何も言ってこない。これが大観光地なら、見てもいないのに「これは○ドルだどうだどうだ」と五月蝿いのだが)。
 作り置きの惣菜もあったが、数多いるハエが気になるところである(せめて直前に火を入れて欲しい)。とあるバーの横で、小さな椅子+小さな網だけで個人営業しているおばさんがいたので、鶉の丸焼きの値段を聞いたら1ドルだという。相場的にもうちょっと安くてもいいかもしれないが、法外な値ではないので、それを2匹買うことにした。

@別途、パンなどは店で購入済み

 乾ききった体をカンボジアビールで潤し、就寝。

■2017.8.13
 早朝に起床し、6時前にはチェックアウトした。昨日は海側ルートでホテルに来たが、今日は丘側ルートで歩くことにしている(Googleによると、こちらの方が少しだけ近い)。途中からは海も見えたが、コンテナを吊り上げるためのクレーンがたくさんあり、意外に開発されているようである。
 30分ほど歩いて、シアヌークビル駅に到着した。「駅」と言われなければ気付かないような雰囲気である。

@牧場ではありません

 ホームには昨日乗ってきた客車が係留されており、手前の別のホームには自動車運搬用の貨車が係留されている。ということは、今日も「一旦出発して、バックして連結」が決定である。
 まだ出発まで時間があるので、路盤脇を歩いて西の端まで歩いて行った。東南アジアにありがちな「線路とその付近にある貧しい家々」である。しかし、一見貧しそうに見えるが、プノンペン付近の「本格的なスラム」に比べれば、断然マシな建物と言える。
 貨物列車も停まっており、あちらの機関車のほうが上等のように見える。いずれにしても、機関車の数は足りないのであろうが。

@こんな雰囲気

 宛がわれた車両は、往路と同じロングシートであった(結局、7ドルの席と8ドルの席の違いはわからず)。そんな席では外が見えないため、クロスシートの車両(誰もいない)に陣取って通りがかった車掌(昨日と同じ若い女性)に「変えていいよね」と確認した(もちろんOK)。
 定刻より1分早い6時59分に動き出したが、当然まだ出発ではない。一旦前の方に移動し、バックして貨車を連結しなければならないからである。

@あちらに移動してバックする

 それにしても、電源を修理したのであろうか、今日は寒いくらいのクーラーの効きである(東南アジアにありがちであるが)。それ用に用意してきた上着を羽織った。7時15分、本当の出発。
 しばらくすると左手に海が見え、その後は右手に石油タンクがたくさん現れてくる。貨物と旅客、それぞれの収支について知りたくなってきた。

@いかにもな光景

 昨日の風景の逆戻しを眺めていると、車掌がやってきて「やっぱりダメ」という。「ここで写真を撮りたい」と言っても、ダメだという。さっきは笑顔でOKだったのであるから、何かあったのかもしれない。ここから先は私の想像(ほぼ妄想)であるが、例えば掃除担当の係員から「あそこに座らせたらゴミ箱の掃除が増えちゃうじゃないのよ」と文句を言われたとか、チーフの係員から「勝手に許可しちゃダメだ」と怒られたとか(以下続く)。
 仕方ないので、ロングシートの車両(内装やシートはこちらの方がはるかに豪華であるが、私にとっては良くない車両)に荷物を置いて、しばらくデッキから外を眺めた(疲れたら席に戻る、の繰り返し)。
 往路では気付かなかったが、この辺りでも海が少しだけ見える区間があることに気付いた。

@川の奥にちょっとだけ見える

 9時12分、カンポットに到着した。多くはないが乗客が増え、西洋人の姿もちらほらと見える(そういえば、往路でもフランス人が下車した)。乗客が増えたことに伴い、クロスシートの車両にもちらほらと座っている人がいるようになった。そこで例の車掌にその車両を指差しながら「OK?」と聞いたら、今度は笑顔でOKであった。急いで荷物をその車両に移動させた。
 長時間停車するので駅前まで出てみたが、何もないところである。外国人旅行者は、どこへ行ってどこから帰ってくるのだろう。

@駅舎

 店も出ているが、特に買いたいものもない(そういう時間帯でもない)ので、パス。
 9時24分、カンポットを出発した。あたりは見事な田園風景であるが、同じような風景が続くのでついウトウトとしてしまう。

@時折、こういうアクセントもある

 10時15分、例のポイント(対向の旅客列車と行き違うところ)に到着した。引込線に入ったようである。いつ出発できるかは、対向列車の到着次第である。
 昨日はここを10時45分に出発したので「しばらく待たされるかな」と思ったが、デッキから外を見てみると、もう対向列車のヘッドライトが見えているではないか。これならば、今日はすぐに出発できそうである。

@あれの通過待ち

 あちらの列車が通過すればいいだけ、と思っていたが、ここから謎の動きが始まった。まず、引込線にいたこちらの列車が本線に戻り、さらに対向列車が本線に入れるだけかなり後ろに下がり、それから対向列車がこちらに近づいてきてお互いの機関車がお見合いをする形になり、そして対向列車が後退して引込線に入り、最後にこちらが本線上を通過する、という。
 対向列車を通過させれば良いだけなのに、わざわざ上記のようなことをした理由は不明である。そうしないと信号が変わらないとか、実はこちらの編成の尻尾(貨車)がはみ出していてあちらが通過できなかったとか、何かしらの理由があったのかもしれない。

@謎

 不可解な行き違いを追えると、引込線の先には貨物が係留されているのに気付いた。作業施設のようなものもあるので、単なる行き違い施設ではないようである(それにしても、上記の変な手続きの理由にはならないだろうが)。結局、このポイントを通過したのは10時38分であった(昨日とさほど変わらず)。
 長閑な田植えの様子などを見続けているうち、11時25分にタケオに到着した。
 昨日と同じ売店の人々を眺めつつ、今日は駅舎の外まで行ってみたが、カンポット以上に何もない駅前である。小さい農道が1本あるだけで、いったい乗客はどこからやってくるのか不明である。

@駅前

 11時36分、同駅を出発。再度長閑な景色を眺め続ける。
 12時半頃になり、雲行きが怪しくなってきた(スコールの予感)。案の定5分後には降り出したが、すぐに止んでしまった。
 その後しばらくすると、貨物列車と行き違った。この旅行記前半で「貨物ターミナルのような施設」と表現したものであり、単なる行き違い施設ではなく、積み下ろし等もすると思われる建物もある。

@貨物T

 タイ方面に繋がっている路盤と合流し、その後は貧しい家々が続いた。空港も近いため、上空を大型旅客機が着陸していく。
 貧しい家々と書いたが、あくまで日本との比較論であり、これでもある程度のレベルの生活なのであろう。上記の家が途切れてプノンペン駅に近づくと、もう家の体を為していないスラムの登場である。

@かなり貧しい

 だんだん雲行きが怪しくなり、スコールが降り始めた。しかも先ほどのとは違い、バケツをひっくり返したかのような大雨である。
 遠くにあった高層ビルが近づいてきてプノンペン駅の構内に差し掛かると、今度は車両の墓場が見えてきた(よく言えば操車場であるが)。

@ボロボロ

 大スコールの中をゆっくりと走り、終点のプノンペンには13時22分に到着した。なんと定刻よりも38分の早着である。
 この雨ではどこにも行けないので、しばし駅構内のベンチでPCをつつき、1時間ほどして雨がやんでから徒歩で街中にある寺院等を観光し、スーパーでお土産を買い、市場などを適当に見て回った。
 余裕をもって17時半頃に03番系統のバス(空港前を通る)に乗ったが、途中の工事区間(高架工事中)で引っ掛かり、空港までは1時間10分を要した。
 しかし、空港のラウンジは綺麗であり、ネットで「受付でアルコール券2枚もらえるだけ」と書いてあったが実際はそんなものはなく呑み放題であり、すっかり酔っ払ってから成田行に搭乗することができた。

@寺院で見つけた猫

 

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