平成版「マッキンレー阿房列車」

■はじめに
 米国アラスカ州にあるアンカレッジと聞いて、何を連想するのかによって世代がわかるのではないだろうか。私ぐらいの世代であると「欧州に行く飛行機はソ連上空を飛べないし、給油も必要なのでアラスカ経由らしい」という知識くらい。そして私よりも上ならば、「アンカレッジ空港のうどんは不味くてねぇ」という具体的な体験談となり、私より若ければ、それはもうロシア上空を経由する直行便が飛んでいる時代であるため特に思い入れはなくなる。
 今回は、アラスカ鉄道に乗りに行くことにした(理由は北欧に行った際と同様で、日の長い季節だからである)。しかし、半強制的にアンカレッジ空港で給油のために降ろされていた時代とは違い、今は逆に行くのが大変なのである。
 夏の観光シーズンには多少のチャーター便が出るらしいが、それを頼りに私の休日を決める訳にもいかない(鉄道との兼ね合いもある)。結局、サンフランシスコとシアトルで乗り換えて、アンカレッジまで向かうことにした(復路はフェアバンクス発)。

【旅程】
初日:0時05分発の便でサンフランシスコへ(時差の関係で到着は前日の夕方)。シアトル行の便に乗り換える(シアトル泊)。
2日目:午前中の便でアンカレッジへ。午後はアンカレッジ市内観光(アンカレッジ泊)。
3日目:アラスカ鉄道(コースタル・クラシック号)で、スワードまで往復(アンカレッジ泊)。
4日目:アラスカ鉄道(デナリ・スター号)で、フェアバンクスまで移動(今回のメイン)。
5日目:夜中の便でシアトルへ飛び、早朝に到着。シアトルにある航空博物館を見学し、午後の便でサンフランシスコへ。夜の便で羽田に向かう(時差の関係で、到着は翌日の夜遅く)。

 4日目の夜については、当初はフェアバンクスで泊まって翌日午前の便で飛ぶことを予定していたが、万が一シアトルへの便が遅れた場合に日本行の便に乗り継げなくなってしまうため、無理を承知で夜中の便にした次第である(それに、その方がシアトルで観光要素を加えることができる)。

@スワード駅にて

■2014.9.3
 現地時間の18時前に、サンフランシスコ空港に到着した。ここで乗り換えることとなるが、この空港は去年も利用したばかりであるし、元から設計がコンパクトでわかりやすいので迷うこともない。
 しかし、JALの控え(予定表)にある通りにターミナル1へ行ってみると、「アメリカン航空の乗客はターミナル2で手続きを」と書いてあるではないか。言われた通りに2へ行ってみると、係員からは「これはアラスカ航空による運航だから、国際ターミナルね」と言われてしまった。しかし控えには国際を意味する「I」ではなく「1」と書いてあるし、念のためにもう一度1へ行ってみると、「アラスカ航空は8月20日から国際線ターミナルに移転しました」の掲示が。少しくたらい回しになってしまったが、なんとかチェックインすることができた。
 空腹を覚えたため、せっかく米国にいるのでハンバーガー(約10ドル)を買ってみる。いかにもなアメリカンサイズであり、半分の量でいいから料金も半分にしてほしいと思った。

@特大(バンズの大きさはトマトと同じくらいでいいのでは)

 シアトルへの便は、最新の737-900であった。新品の香りがする機体で飛ぶこと2時間弱でシアトルへ。空港の駐車場近くにある無料の電話で予約済みのホテルに電話を掛けて送迎を呼び、22時半過ぎには部屋に落ち着いた。特大ハンバーガーがまだお腹に残っているので夜食は不要だが、ホテルの隣りにコンビニ(セブンイレブン)があってビールも売っていたので、特大サイズを2本買ってそれを飲み干してから床に就いた。

■2014.9.4
 6時半過ぎにホテルの送迎車で空港へ行き、自動チェックイン機で搭乗券を印刷し、さすが米国だけあって国際線並みに厳しいセキュリティチェックを受けて搭乗口へと向かった。出発の20分くらい前に乗り込んだが、同じ737でも今日のはボロボロの737-400である。

@こうして顔が並ぶとちょっと怖い

 アンカレッジへの飛行時間は約3時間40分(時差1時間)。北上するにつれて雲が多くなり、到着時は今にも雨が降り出しそうな曇天であった。
 11時少し前にロビーに出たが、市内へ行く路線バスは1時間に1本だけであり、次の発車は11時47分である。それまで、空港内にある様々な展示物(剥製や民俗資料など)を適当に見たりして時間を潰した。アンカレッジ空港に関しては冒頭に書いた通りであるが、日本の航空会社が寄らなくなったからといって衰退したわけではなく、貨物輸送に関しては未だに重要な位置を占めているという。たしかに、旅客機は小さ目の737やその他のプロペラ機が中心であるが、貨物機に関しては747(ジャンボ)が目の前に3基もいたりするくらいである(貨物が重要という意味では、アラスカ鉄道と同じである)。

@鐡ネタはまだ

 時間になってからバス乗り場に向かったが、そのバスに空港から乗ったのは私を含めても3人だけであった(ほとんどの人は自家用車で、ツアー客はバスで移動してしまうのであろう)。
 バスで25分ほど移動して、ダウンタウンにあるバスターミナルに到着した。今日は特にすることもないので、市内を適当に観光するだけである。
 まずは腹ごしらえ、ということで、旧連邦政府ビルの近くにあった屋台でトナカイのソーセージのホットドックを買ってみた(似たような店が数店あったが、敢えて人が並んでいる店にしてみた。後で調べてみたが、どうやらそこが人気の店であるらしい)。またしてもアメリカンサイズであるが、6ドルなら良心的価格である。

@鐡ネタはまだまだ

 時間も有り余っているため、その後はバスも使わずに歩いてミッドタウンまで行ったりして観光をした。しかし歩き始めてから雨が降り始めてしまい、途中からは結構な降雨量になってしまったため、今思えばバスに乗れば良かったと後悔している。
 今日こそは鐡ネタなし、と思っていたのだが、実は1つだけ発見している。それとは、ディレイニー・パークにあったSLである。実は路線バスで市内にアクセスしていた際に、公園内にそれ(SL)らしきものが遠くにあったような気がしたので、その辺りに行ってみたら実際にあったのである。

@初の鐡ネタは予定外のもの

 夕方になってホテルにチェックインをしてから、夜の食材を求めて街へ出てみた。しかし、小売店らしきものは事前にネットで調べておいたのだが、ほとんどが個人商店かコンビニ以下の小さな店舗なのである。決してアンカレッジに大型スーパーがないというわけではなく、この町の中心はミッドタウンの方であり、ダウンタウンにはその手の大型スーパーがないのであった。
 食材はコンビニ風の店で手に入れるとしても、何より困るのが「酒が売ってない」という点である。手当たり次第の店に入ったがジュースしかなく、途方に暮れかかった頃に観光案内所(18時を過ぎているのにまだ空いていた)があったので、そこで訊いてみることにした(英会話をやっている意義が、まさにここで活かされることに)。
 そこで紹介してもらった酒類販売店で大量のビール(翌日以降分を含む)を手に入れ、無事にホテルへと戻った。

@1日で呑むわけではありません

■2014.9.5
 4時台に起床。今日はスワードまで往復することにしているが、往路の出発時刻は6時45分である。アラスカ鉄道に関する案内書などを読むと、「チェックインは早めに。できれば1時間前には駅に到着のこと」のようなことがたいてい書かれているが、6時45分の1時間前となると当たり前だが5時45分である。そんな早い時間に行くべきかどうかわからなかったが、どうせ起きているので5時半過ぎにホテルを出て暗闇の中を歩いて行った。今日は昨日に引き続き、残念な雨模様である。
 時刻のせいもあって市内を歩く人はほとんどいなかったが、10分ほどで駅についてみると、なんと駅構内は超満員であった。ここだけ異次元のようである。

@皆さん早起きで

 どれだけ待たされるのかと不安に思ったが、予約済みの紙とID(もしくはパスポート)を見せるとすぐに切符をもらえるため、大行列に並んだのは10分弱であった。
 アラスカ鉄道には、全席展望席で無料の飲料なども付いてくる「ゴールドスター・サービス」と、一般席の「アドベンチャー・クラス」がある(これら以外に、ツアー専用の車両もある)。今回は、スワードまでの往路とフェアバンクスまではゴールドスター、スワードからの復路はアドベンチャーにしてある(違う種類を経験する意味もあるが、往路については同じ路線であることと、後半は日も暮れて景色も見えないため)。

@バッジももらえる(ゴールドスターの乗客であることを示すため。アドベンチャーの乗客は、ゴールドスターの区画には入ることができない)

 6時15分頃に、待合室内であれこれとアナウンスがあってから改札口が解放された。通常ならば真っ先に編成の確認をするのであるが、雨も結構激しいので、それはスワード到着後(もしくは復路乗車時)にすることにして、いそいそと自分の号車へと向かっていった。ゴールドスターの車両は二階建てであり、二階部分が客席、下は専用のレストランになっている。

@無情の雨

 座席は進行方向に向かって左側で、窓側であった。外を見たり写真を撮ったりするにはもちろん窓側が良いが、この車両の後方には展望スペースもあるため、そこへ頻繁に行くのであれば通路側の方が良い(結果論からすると、2/3以上の時間を展望スペースで過ごしてしまったが)。
 6時46分、汽笛が2回鳴って出発した。しばらく走行して市街地を抜けると、右手にクック湾が見えてきて、これが延々と続く。展望スペースはかなり寒いが、きれいな写真を撮るためには外に出るのがベストである。

@海沿いに走る

 全車両共通のアナウンスもあるが、ゴールドスターには各車両に2〜3人の客室乗務員が乗車しており、無料の飲料サービス(アルコール類は有料)や観光アナウンスをしたりしている。じきに朝食の希望を取りに来たが、ひとり者の私は申し込まなかった。しばらくすると、朝食を希望した人が階下のレストランに呼ばれていった。
 8時01分にガードウッドに到着し、わずかな乗客を追加して定刻から10分遅れの8時10分に出発した。

@雨なりに綺麗です

 だんだんと山深くなり、9時前からは沿線風景は巨大な氷河などの見所が目白押しとなった(復路の方が綺麗な写真が取れたので、氷河の写真については後ほど)。
 その後も、鉄路は険しい渓谷へと分け入っていった。あまり事前予習をしておかなかったので、スワードへの路線がこのような山岳路線であるとは知らなかった。

@低速で走行

 コースタル・クラシック号は夏の繁忙期でも1日に1往復(同じ編成が行って帰る)しかないため、本来ならばすれ違う旅客列車はないはずである。しかし、ツアー専用の列車もいくつか走っているようであり、時刻表にはない列車と途中ですれ違うこともあった。

@見た目は似ているが、あちらにはゴールドスターがない(機関車も1両)

 その後も展望スペースに立ち続け、あれこれと写真を撮り続けた。せっかく高いお金を出したのだから席にいればいいのにと思われるかもしれないが、窓越しの写真はやはり質が劣るのである(それに雨の日は、水滴が窓に付いてしまうので尚更である)。

@あとは青空があれば完璧…

 晴れていればずっと展望スペースにいてもいいのであるが、あまりに寒いので、峠を越えて路盤が下り始めてからは車内に戻って自席に座り続けた。
 11時01分、定刻より4分早くスワードに到着した。幸い、雨も上がっている。
 折り返しのアンカレッジ行の出発時間までたっぷりと時間があるため、まずは編成を確認してみる。機関車2両を先頭に、荷物車1両、ゴールドスター2両、カフェ(スナック)2両、アドベンチャー6両となっており、最後の1両はラウンジっぽい感じで、ツアー用のようでもあった。

@お疲れさま

 ほとんどの乗客は観光バスで散っていき、じきに駅付近は閑散としていった。
 まずは港付近を散策してみる。駅付近には、旧い車両を改造した店舗もあった。フィッシュ&チップスの店などもあったが、結構なお値段である。結局、土産物店で怪しいサラミ(トナカイ肉などがブレンドされているもの)を3種類買っただけで、湾に沿って歩き始めた。
 入り江の周辺は、釣り人だらけである。釣りと言っても餌で釣っているのではなく、いわゆる「引っ掛け」であり、大きな針を投入れてそれで鮭を釣り上げているのである。海水面は鮭だらけであり、誰もが入れ食い(入れ引っ掛かり?)状態であった。

@その場で捌いてバーベキューをしている人も

 海沿いにある公園を20〜30分歩いて、街の南端まで辿り着いた。これといって惹かれる店もなかったので、小売店で特売のポテトチップ(実は賞味期限切れ)とジュースを買い、それを平らげてからはこの小さな町で唯一といってよい観光施設であるシーライフセンターへ向かった。
 時間はいくらでもあるため、施設をゆっくりと3周くらいして多種類の鳥や海獣(アザラシなど)を見て回った。

@激写(ズーム機能なしで)

 シーライフセンターを出てすぐ目の前に酒屋があったので、ワインを手に入れておいた。その後は海沿いに歩いて駅方面へ戻って行ったが、幸いにも晴れ間が覗き始めてきた。センターの近くには、初めてスワードで蒸気機関車が走った地点があり、記念碑があってその先っぽには小さなSLが掲げられていた。

@一応「鐡ネタ」でしょうか

 駅を通り過ぎて大型スーパーまで行き、今晩用の食材を揃え、駅へ戻ってからはトイレの近くに掲げてあったループ線の説明版(ループ線自体はもうなくなっている)を読んだりしたが、それでもまだ時間がある。なので敷地の奥の方にあった貨物の操作場のようなところまで歩き、そこから貨物線沿いに歩き続け、さらにはクルーズ船が出る敷地の近くにある操作場まで行ったりして時間を潰した。

@これも「鐡ネタ」ということで

 駅へと戻り、すでに入線していた復路のコースタル・クラシック号に出発の15分くらい前に乗り込んだ。編成は往路とまったく同じであるが、△状になっている引込線等を使って前後が逆になっており、復路もゴールドスターの車両が先頭になっている。
 宛がわれた座席は、アドベンチャー・クラスでは一番前の普通の車両(展望席がないもの)であった。ほどなくして出発時刻である18時になったが、往路とは違って乗客もまばらである(後になって気付いたのであるが、後方の数両に至っては乗客が皆無であった)。することもないので、1両後ろにあるアドベンチャー用の展望席に行ってみたりする。

@こういう車両(座席指定ではなく、誰でも自由に入れるスペース)

 定刻に出発して出発してしばらくすると、左手に湖が見えてくる。湖が終わるとだんだんと標高が上がっていき、右手には氷河が見えてくる。スワードでの青空はどこへやら、残念ながら復路も雨模様になってしまったが、小雨程度であるので往路よりは綺麗な写真を撮ることができた(上記の写真のようにアドベンチャーの展望席だと窓越しの写真になってしまうため、ほとんどすべての写真は車両間のデッキから撮影をした)。

@肉眼で見た方が迫力があります

 往路の逆回転でその後は渓谷美となり、以前はループ線があった区間に入っていく。今となってはループではなくなったものの、それでもかなり急激なカーブとなっていて、これから走る・これまで走ってきた路盤がすぐ前後に見えている。列車の編成も長いため、先頭と後方が「つ」の字で繋がりそうなくらいである。

@青空があれば!

 その後もデッキから景色を眺め続けていたが、氷河がある山からの吹き下しの風は冷たく、凍えそうなってしまったので日が暮れかかってからは自席から外を眺め続けた。
 唯一の途中駅であるガードウッドへの下車客がいないため同駅を通過したため、アンカレッジ到着は定刻より12分ほど早い22時03分であった。ホテルへ戻り、スワードのスーパーで買った鮭の冷凍食品と、例の怪しげなサラミで一献である。

@この晩は一番右のを食べてみました(一番左の鮭はスワードの個人商店で追加したもの)

■2014.9.6
 昨日までは雨であったが、メインとなる今日さえ晴れてくれれば問題はない。5時過ぎに起床して7時頃にホテルを出発したが、雲が多いものの北方の彼方はそれが切れていて見事な雪山が連なっているのが見えるため、どうやら晴れそうな予感である。
 ほどなくして駅に着いたが、昨日とは違ってカウンター前は閑散としている(昨日は、たまたま団体が重なったのであろう)。並ぶこともなくカウンターに予約済みの紙を渡すと、受付のおばさんは「あら、昨日も来ていたわね。スワードへの旅はどうだった?」みたいなことを聞いてくるではないか。日本人観光客自体はかなり多いものの、ほとんど全員がツアーであり私のような「ピンでの移動」は少ないようであり、覚えていてくれたようである。

@見た目は昨日と同じですが

 本日のデナリ・スター号の編成は、機関車2両を先頭に、荷物車1両、ゴールドスター1両、カフェ1両、アドベンチャー3両で、そして末尾に塗装が全く違うツアー用の2両が連結されていた。
 ほぼ満席の状態で、定刻ぴったりの8時15分、列車はゆっくりと出発した。ただでさえゆっくり走るアラスカ鉄道であるが、市街地ではさらに低速である。

@早く雲が切れますように

 しばらく走っていくとパーマー方面への支線が右手に分かれていき、そして9時を過ぎた頃には雲が切れてその間から太陽が顔を出したではないか。アラスカに来て、初めてのお日様である。
 その後は、レストランや商店などが現れて意外なくらいに賑やかになっていき、9時36分にワシラに到着した。駅自体はかなり小さくプラットフォームも短いため、前方4両ははみ出してしまい道路を遮断したままである。

@しばらくお待ちください(停車中)

 晴れていたのも束の間、同駅出発後はまた曇っていき、終いには濃霧になってしまった。これでは、車窓としてのマッキンレー(マッキンリー)山脈を堪能するのはほぼ絶望的である。
 しかしどんどんと雲は流れていき、11時少し前からは再び青空になっていった。これで一安心である。
 11時13分、定刻からに到8分遅れでタルキートナ着した。駅付近には観光バスが何台も停まっており、乗客もたくさん待ち構えている。

@観光用のセスナも飛ぶ(老後はあのようなものに乗るリッチな旅がしてみたい)

 かなりの乗客が降り、その分また乗ってきた。同駅を出発した後はしばらく川沿いに走っていく。タルキートナの前後では左手にマッキンレー山脈が見えるらしいが、晴れたと言ってもまだ遠方には雲も多いため、マッキンレー山脈を拝むことは叶わなかった(もとより、見える確率は20%程度らしいので、それほど残念ではない)。

@晴れてくれただけで充分である

 11時46分頃に、駅も何もないところで停車した。前方の見てみるとどうやら行き違い施設があるようであったが、なんとポイント操作が「手動」である。乗務員が降りてとことこ歩いて行き、手動でポイントを切り替え、ゆっくり走り行く列車を見送るのである(ポイント通過後に、彼は最後尾に乗り込むことになる)。

@まさかの手動

 ポイントを切り替えて待避線に入ったということは、当然行き違いの列車が来るということである。しばらくすると、すべて2階建ての車両で編成された列車がやってきた。時刻表にはない列車のようであるから、ツアー専用のものであろう。

@行き違い

 対向列車とすれ違った後は当然の如く本線に戻ることとなるが、ここでもやはり手動でポイントを戻さなければならない。ご苦労なことであるが、たまにしか使わない(臨時列車との行き違いのみに使用される)ポイントまで自動管理するのは、経費的に合理的でないのであろう。

@お疲れさま

 ガイドブックによると、ここから先は「フラッグストップ」ができる区間となる。フラッグストップとは、駅も何もない場所でも旗を振れば列車が停まってくれそれに乗車することができるという、地元住民に許された制度のことである。ちなみに私がアラスカ鉄道について最初に目にしたのは作家の阿川弘之氏の『南蛮阿房第2列車』にある「マッキンレー阿房列車」であり、このフラッグストップに関する説明は、開高健氏とのやり取りと共に印象深く覚えている記述であった。
 ふと車内のガイドアナウンスを耳にすると、やはりフラッグストップに関する説明をしていた。

@開高健が釣りをしたのはこんな川だったのかも

 アラスカ鉄道の収支にとって貨物が重要であることはすでに記したが、この辺りから先は炭鉱としても有名であり、石炭の輸送もアラスカ鉄道にとっては大きな収入源である。しばらくして貨物列車とすれ違ったので「石炭か?」と思って期待していたら、よくわからない大きな石とバラスト用の石ばかりであった。

@大きな石は何用?

 時刻的に昼時になったので、まだ一度も利用していないカフェへ行ってみることにした(車内アナウンスでは「スナック&バー・カー」と案内している)。何種類かのサンドイッチなどがあったが、ブリトー(トナカイのソーセージ入り)が1つだけ残っていたのでそれにしてみた。7ドルするが、意外に具だくさんであり(もちろん量はかなり多く)、満足の行く内容であった。

@レンジのし過ぎで容器が変形(コーヒーはゴールドスターでもらった無料のもの)

 ブリトーを食べ終えてから自分の車両に戻り、展望スペースから外を見続けていると、またしても臨時のツアー専用列車とすれ違った。今度は白色の2階建て車両中心の編成である。
 そうこうしているうちに、また雲が多くなってきてしまった。しかし、雲の合間からは遠くに雪山も見えており、「ぎりぎりセーフ」な感じである。

@見えないよりはよい

 13時35分、見どころの一つであるハリケーン峡谷を渡る橋に近づいていった。観光用にだんだんスピードも遅くなり、橋の上ではいったん停止して景色を堪能させてくれる。足がすくみそうなくらいの高さである。

@橋に入る手前(橋の上からの写真もあるが、いまいち臨場感が伝わらないのでこちらを)

 14時12分、フェアバンクスからやって来たデナリ・スター号とすれ違った(寒さにやられて自席に退避していたため、写真はなし)。
 無料のコーヒーを飲んで体を温めてからは、再び展望スペースへ行ってあれこれと眺める。辺りの景色は、湿地帯のようなものに変わっていった。

@綺麗

 その後は雲がだんだん厚くなってきてしまい、若干小雨も混じるようになり、旧い橋を渡ってから15時45分にデナリ国立公園に到着した。さすがに観光地だけあって車内にいた乗客はほとんど降りてしまい、私がいた車両で残ったのは私を含めてもたった4人だけである。私以外の3人がアンカレッジから乗っているのかそれとも途中のタルキートナから乗ったのかは不明であるが、いずれにせよ、通しで乗る人はほとんどいないということである。

@いきなり閑散としてしまう

 しかし、ここから乗ってくる乗客も多く、ほぼ100%だった乗車率は結局90%くらいになっただけであった。しかし幸いなことに私の隣りには乗ってこなかったので、これで席への出入りが楽にはなる。
 大量の乗客の乗り換えに時間を要し、16時10分に同駅を出発した。いい加減体も冷え切っているので自席に座り続けようと思っていたが、今度は石だらけの渓谷が現れてきた。いそいそと展望スペースへ移動し、あれこれと写真を撮り続けた。

@そうそう来るところではないですから、寒さくらいは我慢

 寒いので、3杯目となる無料コーヒーをすすりながら景色を眺めていたが、さすがに芯から冷えてきたため、渓谷が終わった後は自席に戻った。しばらくの時間はそこに留まっていたが、ウトウトとし始めた瞬間、車内ガイドが「ムース(ヘラジカ)がいます!」と言うではないか。確かに、動く物体をほんの一瞬だが目にすることができた。それに触発され、展望スペースへ戻ることとした。18時07分、定刻より12分遅れでネナナに到着。峠区間では曇り(時折小雨)になってしまったが、同駅を出発後は再び青空が見え始めてきた。この調子で行くとフェアバンクスではオーロラが、…はさすがに無理であろうが、晴れに戻ったのは嬉しい。

@フェアバンクス方面を望む

 再度寒さにやられて自席に戻り、景色を眺め続けた。暇なのでキロポスト間の時間で速度を計ってみたが、75秒速1キロ=時速48キロであった。納得の鈍足である(景色を眺めるのにはこれくらいが最良である)。
 私の前に座っているおばさんは、先ほどのムースを見逃した悔いが大きいのか、ずっと立ったままで辺りを見続けている。その甲斐あってか、しばらくして「ベアー(熊)!」と叫んで指差した(私は残念ながら見逃してしまった)。
 その後は次第に人家が増えていき、巨大な操作場に入っていって、フェアバンクス駅には19時56分に到着…しないで通過して、しばらく行き過ぎてからスイッチバックする形で駅舎の真横に到着した。時刻のチェックを忘れてしまったが、ほぼ定刻(20時00分)の到着である。

@まだ明るい(時計は20時02分)

 さて、本来ならばここで一泊して鐡ネタ(パイオニアパークの鉄道)でも拾いたいところであるが、このまま空港に直行して深夜の飛行機でシアトルに向かうという無謀な旅程になっている。というのも、ホテルに泊まったところで明日の朝かなり早い時間の飛行機に乗らねばならず、結局フェアバンクスでは何もできないため、それならば移動で無理をしてシアトルで観光した方がよいと考えたためである(ホテル代も節約できる)。それにその方が、シアトル行の便が遅れたとしても乗り継ぎの不安がなくなる。
 時刻はまだ20時過ぎ、シアトル行の出発は1時30分であり、山ほど時間がある。本来は、駅から空港までぶらぶら歩いて行くつもりであった(アラスカは米国にしては治安が良いし、まだ明るい時間帯であるため)。しかし、列車内でもらった市内地図を見て気付いたのであるが、駅から最初に西方へ行く道路が高速道路ではないか。いくらなんでも、そこを歩くわけにはいかない。高速道路を迂回するとかなりの距離になってしまうため、悩んだ挙句、駅前にたくさん並んでいたタクシーに乗ってしまうことにした。距離もそれほどないため、大金にはならないはずである(実際、20ドル程度+チップで済んだ)。

@フェアバンクスでやったこと:駅に少し滞在しただけ

 タクシーに乗り込み「空港に行きたい」と言うと、「これからフライトか?」と少し驚かれた。それもそのはず、普通の旅行者はホテルに行くものである。遠路はるばるせっかくフェアバンクスに着いたのに、いきなり空港へ行って飛行機で移動というのもたしかにバカらしいが、しかし、ダウンタウンにあるホテルよりは空港の方が遠いから、彼にとって私は悪い客ではなかったであろう。
 20時半前には空港に到着したが、これから4時間以上も暇である。空港内を散策して白熊や狼の剥製を見たりしたが、ものの10分で終了である。
 パソコンをつついて時間を潰し、少し薄暗くなってきた頃(22時頃)に外に出てみた。もし歩いていればこのくらいに到着していたかもしれないが、外は凍えるほど寒く防寒着程度では我慢できそうにないくらいであったので、タクシーで移動したのは正解であったと思った。

@気温は確実にマイナスでした

 再びパソコンをつつき、真っ暗になった23時頃にまた外に出てみた。晴れてはいるが、さすがにこれだけ人工施設が多い(明るい)場所でオーロラを見るのは不可能である。そそくさと戻り、荷物の中にある余りもの(ビール3本、ワイン少し、怪しいサラミ2種類、パンの残り)で夕食を始めた。

■2014.9.7
 1時30分のフライトでシアトルへ飛び、6時過ぎに到着した(アルコールのおかげで、離陸すら覚えていない)。サンフランシスコ行の搭乗手続きを済ませてから、ライトレールでいったん市内へ行き、プレイスマーケットなどを散策してから路線バスで航空博物館へ向かった(いきなり博物館へ行かなかったのは、単なる開館時間までの時間稼ぎである)。米国の路線バスに乗るのは初めてであったが、事前調査が完璧であったので問題はなかった。

@これに乗りたかったなぁ…(コンコルド)

 スペースシャトルなど、あれこれ堪能してからは再度路線バスとライトレールで空港へ戻り、14時半の便でサンフランシスコへ飛び、ブリティッシュ・エアウェイズのラウンジでシャワー+生野菜+地物のビール、JALのサクララウンジでおにぎり+ラーメンという完璧なコースをこなし、今回の旅行を締め括った。

 

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