久々の矢島線、最後の江差線(「安飯」の旅)

■はじめに

 春分の日を含めた三連休であるが、海外は当然のこと、国内旅行でも交通費が高くなってしまう。この時期に安い行先を探すとなると、どうしても人気のない所(北の方)となってしまうが、だからといってまた女満別空港にするというわけにもいかないであろう(昨年11月と今年1月に利用したばかりである)。
 あれこれ検索した結果、往路は秋田空港、復路は三沢空港となった。「鐡旅」なるホームページを開設していて、北東北には何度も行っているにもかかわらず、私は未だに秋田新幹線の新型車両(E6系)に乗車していないし、東北新幹線に至っては八戸以北に未乗車のままである。そして今回、またしても飛行機を利用したパック旅行にしてしまったのであるが、やはりどうしても安さで敵わないのである(青森でのホテルを1泊付けて、26,500円しかしない)。

 訪問先等であるが、まずは、すでに乗車済みではあるがずいぶんご無沙汰である由利高原鉄道「鳥海山ろく線(旧国鉄矢島線)」に乗り(ひなまつり関係のイベントもやっているらしいので)、あとは、昨年2回も乗車している江差線(2014年5月11日が最終運行日)に性懲りもなく再訪することにした。廃線直前は「専門の方」で大混雑になってしまい、私はあまりそういうのが好きではないので去年のうちに2回も乗りに行ったのであるが、やはりあと1回どうしても乗っておきたくなってしまったのである。


@江差駅に到着する列車

■2014.3.21
 早朝に羽田空港を「条件付運行」で離陸し、秋田空港には8時20分過ぎに到着した。季節外れの爆弾低気圧のせいで東北地方の天候が荒れているが、今日は太平洋側の方が酷いようである。
 連絡バスで秋田駅へ移動。JRの出発まで40分以上あり、駅弁コーナーがあったのであれこれ見てみたが、それなりの金額(850円〜1,500円)である。朝からあまり奮発するのも…と思い悩んでコンビニへ行ってみると、地元のパンメーカーのもので「学生調理」なるものがあるではないか。これはこれでインパクトがあるので、買ってみることにした。

@チープな味でした(「あけぼの」ワンカップは晩酌用)

 その後ホームへ降り、酒田行の各駅停車に乗り込んだ。
 東北地方に多いこの車両(701系。私は車両形式には疎いのでネットで調べた)は、私が最も好きではない車両のうちの一つである。その理由は至極簡単で、地方を走行するのにロングシート(通勤列車のような横長の座席)だからである。
 東北地方といえば、昔は50系という紅色の車両が走っており、非冷房であるため夜間に停車すると開けっ放しの窓から虫が大量に入ってきたりしてそれはそれで難儀であったが、ゆっくりガタゴトと走るその様は、基本的に風情のある車両であった。しかし現在の701系は、まるで都会の通勤列車のような座席で、まったくもって旅情を感じ取ることができないのである。
 目の前に座っている地元のおばあさんも、コンビニのおにぎりをドアの方を向いて(横を向いて)隠れるようにして食べている(かく言う私もロングシートで飲食する気にはなれないので、先ほどの調理パンは駅のコンコースにあるベンチで食べてしまっている)。とにもかくにも、この車両は東北地方における各駅停車の旅を格段に面白くないものにしてしまっている元凶であるように思える。

@見た目は普通ですが

 …と、文句はこの程度に。
 秋田を9時49分に出発し、由利高原鉄道の接続駅である羽後本荘には10時31分に到着した。とりあえずいったん改札を出て、一日乗車券(1,100円)を窓口で買った(その方が往復運賃よりも安くなるためである)。
 10時47分発の矢島行は、一日に一往復だけあるイベント列車で、この時期は「おひなっこ列車」として走行している。

@特別ヘッドマーク付き

 2両編成で、1両目がロングシートを改造したもの、2両めは普通のボックスシート車両にラッピングをしただけのもの、となっている。1両目の方が「イベント感」が高いので、家族連れは主にそちらに乗車しており、御一人様系の人は2両目のボックスシートに納まっていた(当然、私も2両目の乗客となった)。
 由利高原鉄道に前回乗車したのがいつだったかは忘れてしまったが、デジカメデータがない=私がフィルムカメラを使用していた時代であるから、恐らく1990年代後半あたりと思う。地味な路線であるので当時のことはあまり思い出せないのだが、今日は観光気分で乗車することができるのが大きな違いである。

@「おばこアテンダント」も乗車

 羽後本荘を、定刻に出発した。先ほどまで空を舞っていた雪も止んでいる。羽越本線と分岐する辺りで、最初の停車駅である薬師堂に停まった。
 車内では観光アナウンスもあり、また前郷駅におけるタブレット交換の説明などもあった。タブレット交換などどこでも見られるものと思っていたが、観光アナウンスによると日本ではもう3か所しか残っていないそうである。
 乗車記念のしおりも配付され(こういう細かいサービスは微笑ましい)、終点の矢島には11時26分に到着した。
 さて、すぐに折り返したのでは面白くないため、少しここに滞在して街をぶらつく予定である。しかし、生憎とまた吹雪いてきてしまった。
 新しい木造の駅構内はまさにイベント状態で、1階では特産品などが売られている。そして2階では、祭りの期間限定で婦人部による臨時の食堂が営業していた。価格も定食で500円と良心的設定であったので、そこで昼食を食べながら雪雲が切れるのを待つことにした。

@「おさかな定食」

 腹もくちくなったところで外に出てみると、ちょうど雪も止んでいた。観光用の地図を片手に、ぶらぶらと歩き回る。

@各会場だけでなく、一般の商店でも飾り付けがしてある

 1時間ほどぶらついてから駅へ戻り、1階で天ぷらや煮卵などを夜用に買い、残った1時間弱はPCをつついて時間を潰した(外は再び雪模様となっている)。
 13時54分発の列車に乗り込み、売店のおばあさんに旗を振られながらお見送りをされて出発した。地味な景色を再び眺めつつ、羽後本荘には14時34分に戻ってきた。
 前回の記憶があまりないので正確な比較はできないが、はっきりと言えることは、「2回とも鳥海山は見えなかった」という残念な事実である。これは積み残し事項として、いつかクリアしなければならないだろう。
 さて、ここ羽後本荘は「ハムフライ」というB級グルメがあるという。ただ単にハムを揚げただけで特別な感じはしないが、せっかくなのでそれを夜用の食材として買おうと思っていた。しかし、残念なことにお目当ての店舗は祝日は休みであった。
 結局、歩いて15分弱のところにあるスーパーで、適当な食材を揃えた(宿泊地である青森到着が遅くなってしまうので、羽後本荘で夕食を揃えた次第である)。

@ちなみにこの日のツマミ(チープ、しかし地場の物中心)

 15時43分の列車で羽後本荘を出発し、秋田で乗り換え、ひたすら青森を目指す。どちらの車両も701系であるため、言わずもがなの「ロングシートの旅」である。旅情は皆無であるが、これはもう仕様がないので諦めるしかない。
 18時過ぎには日も暮れたため、この旅行記を書いたりして時間を潰した。青森着は20時03分。駅から歩いて15分くらいのところにある、パックに付いてくるホテルに投宿した。

■2014.3.22
 5時過ぎに起床。急いで支度をすれば6時14分の列車に乗ることができ、そうすると北海道へ渡る前に三厩まで往復してくることが可能であるが、昨年に同様のことをしたばかりであるため、今日はゆっくりとすることにした。
 7時半にチェックアウトし、駅まで歩く。昨日の朝にコンビニで変わった調理パンを見つけたので、今日も似たようなものがあるかどうか確認してみた。青森県と地のパン言えば、もちろん工藤パンである。工藤パンの調理パンが2種類ほどあったが、ネーミングは普通であった。

@しかし、味はこちらの方に軍配

 8時05分の列車で蟹田へ向かい、すぐの乗り継ぎで特急「白鳥93号」に乗り込んだ。今日は“同業者”(青春18きっぷの特例で特急列車に乗車する&木古内からは江差線に乗る)が多いようである。
 木古内到着は、定刻より若干遅れた9時52分であった。ここ木古内には昨年だけでも2回訪れているし、それ以外の旅でも何度か通過しており、旅程の関係で宿泊したこともある。よって、観光要素のあるもので見逃しているものはもうないのであるが、時間が余って仕様がないので、とりあえず海まで行ってみた。

@この町名物の「寒中みそぎ」が行われる場所らしい(この時点では曇天だったため、復路時(23日)に撮影した快晴時のものに差し替え)

 それでもまだ1時間半以上あるので、隣駅である渡島鶴岡まで歩くことにした。というのも、この駅の近くには禅燈寺という寺院があり、敷地内(山門と本堂の間)に線路が通っているのである。車内からは見たことがあるが、実際に訪れてみることにした。
 途中、スーパーに寄ったりして、歩くこと約40分程度で寺に到着した。スーパーで買った安惣菜(メンチカツとおにぎり。さすがに写真を載せる気にはなれない)で昼食を済ませ、列車がやってくるのを待つ。
 この寺院が紹介される際によく用いられる写真では、山門の開いた口から列車が通り抜ける瞬間を押さえたものが多い。それを狙い、列車が顔を出しつつも本堂の寺院名が見える瞬間を狙っていたのだが、シャッターを押すのがコンマ数秒遅く、本堂はすっぽりと車両に隠れてしまった。

@無念

 近くにある渡島鶴岡駅へ向かい、20分ほど待ってから11時52分発の江差行に乗り込んだ。今日は2両編成で、立っている乗客もたくさんいる。あと1か月半あるとはいえ、いわゆる“狂想曲”はすでに始まりつつあるようであった。
 去年もほぼ同時期に乗車したのであるが、今年は積雪が多く、つい昨日も季節外れの爆弾低気圧が通過したため、かなり積雪が多い。車両のデッキからそれらを眺めつつ、江差までの時間を過ごした。朝方の曇り空も次第に晴れていき、じきに一面の青空となっていった。

@乗車する人も多いが、撮影する人も多い

 列車は、12時55分に到着した。すでにホーム上には乗車を待つ人が数多く並んでいる。常日頃からこれだけの乗客がいれば廃線にはならないのだが、そうはいかないのが常である。
 さて、昨年の2回の訪問との違いは、折り返し列車には乗らずに見送る、という点である。昨年は週末を利用した旅行であったため戻らざるを得なかったのであるが、今回は3連休であるため、大成方面にある温泉宿に泊まることにしているのである。
 再び大量の乗客を乗せた列車は、定刻の13時07分に出発していった。

@お見送り

 宿に向かうまでまだ時間があるため、江差市内を歩き回った。各店舗ではおひなさまが飾られているところが多く、昨日の矢島よりもはるかに多かった気がする。
 歩き疲れてから江差駅へ戻り、15時54分着の列車の到着を見届けてから、宿の有料送迎バス(路線バスだと1,430円かかってしまうが、片道1,000円で送迎してくれる)で宿へと向かった。
 さて、今回の旅は安価な飲食ばかりであったが(今回の旅に限ったことではないとも言えるが)、今晩は豪華である(と言っても、1泊夕食付で7,000円以下の宿であるが)。オプションであわびの天ぷらも追加し(もちろんビールも)、これまでの憂さを晴らすかのような豪華な夕食を頂いてから床に就いた。

@私基準では豪華(世間的には普通かもしれない)

■2014.3.23
 起床後に温泉に浸かり、その後は海岸線まで散歩をしたりしてゆっくりと朝を過ごした。
 有料送迎で約1時間、江差駅には10時少し前に到着した。木古内経由函館行の2両編成はすでに入線している。車内はそれなりに混雑しているが、乗車率にするとせいぜい3割程度しかない。昨日の混雑具合からすると意外に思われるかもしれないが、実はこれは予想通りである。というのも、この列車に乗るためには、私のように江差方面に宿泊するか、もしくは木古内や函館に泊まって朝一番の江差行に乗車する必要がある(東京や札幌を朝に出発したのでは間に合わない)からである。
 駅構内では記念弁当なども売っているが、まだ弁当を頂く時間でもない。駅前に臨時の店舗のようなものがあり、そこでここ江差の名品である五勝手屋羊羹の江差線記念バージョンがあり、これならば変な荷物にはならないので、それを記念に買って帰ることにした(ちなみに私は、記念切符や記念グッズの類は買わない主義である)。

@実用的なもの(もしくは、消えてなくなるもの)が一番

 さて、誰が何と言おうと最後の江差線乗車である(さすがにもう一度来ることはない)。定刻の10時27分に出発した列車は、快晴の下で走り続けた。沿線の小学校では、窓に大きく一文字ずつ「ありがとう江差線」と貼り出したりしている。

@架空の駅「天ノ川」もこれで見納め(この駅は乗降はできません)

 木古内までの道程を充分に味わい、最後の江差線もこれで終了である。
 さて、あとは東京へ戻るだけである。普通の旅行者であれば特急で函館まで行って函館空港から戻るのであろうが、最初に記したように、経費の都合で三沢空港まで行かねばならない。
 まずは往路と同様に、青春18きっぷの特例で特急で蟹田まで移動した。蟹田といえば駅近くに焼き鳥やがあり、ここの定食が安価でとてつもないボリュームなのである(からあげ定食の場合、特大からあげ6個にキャベツ、小鉢が3品に山盛りごはんと味噌汁が付く)。前回はからあげ定食に挑戦(?)してみたので、今回は「とりかつ定食」にしてみることにした。

@今日も特大(これに大量の味噌汁も付く。写真ではわかりにくいですが、ごはんは小丼サイズで大盛りです。これでたったの490円)

 店舗内での飲食以外に大量の持ち帰り用の弁当が作られており、駅員なども取りに来ていた。私より後に入ってきた旅行者は2品頼もうとして、「きっと(お腹に)入らないよ」とやんわりと断られていた(結局、その人は1品を持ち帰りにしていた)。半分以上食べた辺りからかなり満腹になり、「残った分は持ち帰りで…」と思いかけたが、それではここに来た意味がないのでがんばって最後まで完食した。
 さて、あとはひたすら戻るだけである。青森へ移動し、そこから「青い森鉄道」で野辺地まで移動し(特例で青春18きっぷを利用)、さらに青い森鉄道で三沢まで行き、連絡バスで空港へ行くだけである。

@食後の散歩は、蟹田の海辺で

 

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